2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15520171
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中務 哲郎 京都大学, 文学研究科, 教授 (50093282)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 宏幸 京都大学, 文学研究科, 教授 (30188049)
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Keywords | 古代小説 / ヘレニズム文学 / クセノポン / オウィディウス「変身物語」 / ウェルギリウス『アエネーイス』 |
Research Abstract |
古代ギリシアの小説の起源を明らかにするため、中務は従来のアプローチを拡げる試みを行った。古代小説はオリエントの物語やエジプトの民衆文芸の借用に過ぎぬとする説、秘儀宗教のテクストの隠された意味を散文化したものとする説、大セネカの仮想弁論から生じたとする説、それらが首肯できぬことを、まず個々に事例について確証した。さらに、古代小説はヘレニズムの空想旅行譚と恋愛詩が結合して生まれたとする説(E.ローデ)も実体にそぐわないし(なぜなら、それ以前にも小説的なものが存在する)、社会構造、時代精神の変化が小説を生み出したとする説(B.E.ペリー)も、余りにも漠然としていることを指摘した。 その上で中務は、古代小説の誕生にはクセノポン『キュロスの教育』とヘレニズムの学者詩人たちによる地方伝承の蒐集が大きく寄与していると考え、両者の比較考察を行った。デロス島をめぐる「アコンティオスとキュディッペ」の物語や、ヘレスポントス海峡にまつわる「ヘーローとレアンドロス」の伝説は韻文で書かれている故に小説とは見なされないが、内容的には小説に近いことを示した。とりわけ『キュロスの教育』に織り込まれた「パンテイアとアブラダタス」の物語は、後に盛行する古代小説とは時代が隔たるものの、共通する要素を多く含み、古代小説の祖と見なせるのではないかと考えた。 高橋は、オウィディウス『変身物語』とウェルギリウス『アエネーイス』を中心に考察を進め、とくに、『変身物語』第11巻末に置かれたアイサコスの物語が作品中に果たす機能、すなわち、それ以前に置かれた物語との類似および対比に加えて、それ以降のいわゆる「歴史的部分」への橋渡しについて、また、『アエネーイス』の主要モチーフである「敬虔心」の序歌における意味の再検討を行った。
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