2003 Fiscal Year Annual Research Report
プラハ・ドイツ人社会における文化的アイデンティティの形成と機能
Project/Area Number |
15520176
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
三谷 研爾 大阪大学, 大学院・文学研究科, 助教授 (80200046)
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Keywords | プラハ / 都市化 / 文化的アイデンティティ / モダニズム / 流動性 |
Research Abstract |
平成15年度は、本研究課題の初年度にあたるため、『ボヘミア』紙(リプリント版)や『ドイッチェ・アルバイト』誌をはじめとする基礎的な資料の収集につとめた。ことにチェコ国立図書館において長期間にわたる調査をおこない、1次資料を多く検討することができた。 それらの作業をとおして、明らかになったのは、都市プラハの近代化プロセスにおける1890年代重要性である。従来、もっぱら民族対立中心とする政治史の観点から語られてきた19世紀の最後の10年間は、都市交通、電気やガス、上下水道設備といった社会資本整備の面からみて、飛躍的な発展期であった。一連の都市基盤整備事業は、しかし、プラハ・ドイツ人社会にとっては明らかにチェコ化を意味しており、その意味で彼らの文化的アイデンティティが大きな脅威に直面したのも、1890年代だったといえる。こうした社会資本の整備によって出現した近代都市プラハは、社会的・文化的に高度な流動性を発揮して、中欧における美的モダニズムの運動拠点のひとつになっていく。この流動性をどのようにとらえ、表現していくかが、プラハ・ドイツ人社会の文化的アイデンティティ問題にとって、きわめて大きな試金石となったという作業仮説を立てることができる。 次年度では、ソフトウエアとしての都市を制御するさまざまな社会的制度にかんする資料収集をさらに強化しながら、うえの仮説に即して具体的な言説分析をすすめる作業をおこない、世紀転換期プラハの文化状況の全体像を記述するモデルの獲得をめざす。
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