2004 Fiscal Year Annual Research Report
プラハ・ドイツ人社会における文化的アイデンティティの形成と機能
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15520176
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
三谷 研爾 大阪大学, 文学研究科, 助教授 (80200046)
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Keywords | プラハ / アイデンティティ / 都市化 / 都市小説 / 多民族社会 |
Research Abstract |
本年度は、前年度にひきつづき、世紀転換期のプラハ・ドイツ人社会を代表するメディアのひとつである日刊紙『ボヘミア』の入手とその分析をすすめた。とりわけ同紙のローカルレポーターを振りだしに1920年代から30年代にかけて記録文学の分野で活躍した作家エーゴン・エルヴィン・キッシュに注目し、彼の執筆したコラム記事と長編小説『娘飼い』を比較対照する作業をおこなった。そこから明らかとなったのは、ナショナル・アイデンティティの維持や強化を主張する、先行世代のイデオロギー的傾向から距離をとりながら、いわゆるプラハ・サークルの唯美主義的な文学者グループにも組みしない、キッシュ独自の立場である。ジャーナリストとして下層社会の参与観察につとめたキッシュの視線は、都市プラハの工業化にともなって顕著になってきた人とモノの流動化現象に向けられている。コラムから読み取られるそうした社会学思考は、彼にジャーナリズムにおける成功をもたらした。その反面、売春斡旋業に投じる私生児の青年を主人公にした『娘飼い』は、そのディテールの面白さにもかかわらず、小説としては陳腐な結構に終わっている。しかしながら、こうした落差もしくは亀裂のなかにこそ、プラハ・ドイツ人社会におけるアイデンティティ形成の困難さの実質をよりよく窺うことができると考えられる。あわせて、キッシュのプラハドイツ語にかかわるコラム記事を手がかりに、マウトナーに代表される先行世代の言語的アイデンティティとキッシュのそれとのあいだに見られる同一性と差異性について、概括的な知見を得ることができた。
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Research Products
(1 results)