2003 Fiscal Year Annual Research Report
絵本「ちびくろサンボ」の英米日における受容と評価の歴史に関する比較研究
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15520238
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Research Institution | Hachinohe National College of Technology |
Principal Investigator |
戸田山 みどり 八戸工業高等専門学校, 総合科学科, 助教授 (40342448)
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Keywords | 絵本 / 児童文学 / ちびくろサンボ |
Research Abstract |
本年度は、日本国内で出版された『ちびくろサンボ』の諸版の視覚資料を網羅的にデータベース化して、その上で、テキストと視覚表現に関する比較研究を行ってきた。データべース化することによってディテイルの比較が、より容易になりつつある。 日本の児童文学史における児童文学の理想像と本作品との関連については、これまでにもたびたび論じられてきた。本年度においては、純粋に文学と呼ばれるときの、つまり特殊な読者を想定しない、逆に言えば普遍という概念で特定された洗練された読者を想定する大人の文学における文学の自己規定に対して、子どものために大人が書く児童文学の場合の文学らしさの概念がどのような形で形成され、その過程に本作品がどのように関わるのかを、日本の児童文学研究史を考慮することで、見極めようとした。また、その際、社会における文学表現と、教育、啓蒙、報道などとの関連について、あらためて考察を試みた。具体的には、先行研究の中でも差別解放運動論の研究者による反差別運動の批判的研究の立場から『ちびくろサンボ』評価論争を論じている文献に対して、個人的には意図せずに差別にもとづいて生活してしまう植民地主義を検証するという形で、本作品を批判する論拠が可能であることを、評価/批判の言説の中から抽出することを試みている。歴史的社会的に黒人に対する人種差別の意識が希薄な日本国内での受容研究の一環として行っているが、アメリカ合衆国における反差別論争の歴史と関わっているため、アメリカ合衆国における人種間題の歴史および児童文学観の評価の問題も、あらためて研究が深まったと思われる。
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