Research Abstract |
本研究課題の前年度までの成果として,「使役の連鎖」の考えを採り入れた概念構造表示には、二種類の空範疇があり,それぞれ,統語表示での義務的コントロール(PROobi)と随意的コントロール(PROarb)に相当するものであることを,明らかにした。本年度の研究は,特に,義務的コントロールを行なう空範疇に焦点を当て,次のような問題を考察した:(i)controllerとなる意味要素はどのような種類のものか;(ii)controlされる要素はどのようなもので,controllerとはどのような関係にあるのか;(iii)一つのcontrollerがcontrolする要素は一つのみか,あるいは複数の要素が許容されることもあるのか;(iv)統語表示におけるPROoblは,意味表示における義務的コントロール(α,β...)に対応するのか,両者は同一のものか。 (i)に関しては,変項のほか,変項を含む定項,または,別のcontrollerに束縛されている空範疇を含む定項がcontrollerになりうることを示した。 (ii)に関しては,コントロールされる要素αのcontrollerは,αをc-commandしている最短の変項または,空範疇+定項,定項+変項といった複合要素である。そして,両者の間には,統語構造におけるのと同様に,"Minimal Distance Principle"が働いていることが確かめられた。 (iii)に関しては,一つのcontrollerが複数のcontrolされる要素を許す状況は,主語指向の付加詞などが並立する場合に見られることを示唆した。 (iv)に関しては,次のような結論を得ている。意味表示における義務的コントロールは,必ずしもPROoblに対応しているとは言えない。その理由は,PROoblが生起しているのは,不定詞や動名詞などの非定形節に限定されるがらである。しかしながら,その逆である,PROoblは意味表示の義務的コントロールに対応するという可能性は,まだ残されている。このことを,統語論において,それぞれ,その不定詞のPROがobject control, subject controlとされる動詞forceとpromiseの意味表示と統語表示の対応関係を考察することによって,明らかにした。
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