2003 Fiscal Year Annual Research Report
特異的言語発達障害の言語学的考察による文法障害の脳内メカニズムの解明
Project/Area Number |
15520266
|
Research Institution | Health Sciences University of Hokkaido |
Principal Investigator |
福田 真二 北海道医療大学, 心理科学部, 助教授 (70347780)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
FUKUDA Suzy 青山学院大学, 法学部, 助教授 (00337867)
|
Keywords | 特異的言語発達障害 / 文法障害 / 言語の生物学的基盤 |
Research Abstract |
特異的言語発達障害(Specific Language Impairment : SLI)とは、聴覚障害、知的障害や自閉症を伴わない発達性の言語障害をさす包括的な名称である。これまでの欧米での研究成果では、時制、相、一致、数、格などの文法形態素による屈折にその障害が選択的に現れることが報告されている。 本研究の目的は、日本語におけるこの障害の言語学的な特性を明らかにし、その特性を欧米での研究成果と比較しながら言語学的に考察することによって、SLIの文法障害の発生する脳内メカニズムを明らかにすることである。 これまでの成果で、日本語の複合動詞の形成過程において、SLI児は自他交替における形態変化(例:「まわる」「まわす」)にはあまり困難を示さないが、使役文や受動文における語形成(例:「走らせる」「叩かれる」)に顕著な障害を示すことがわかっている(Fukuda & Fukuda, 2001)。このような障害の非対称性は、統語的な主要部の移動が複数の事象範囲にまたがる場合や、移動によって形成された主要部の束の形態的な表出プロセスに規則的な接辞付与が伴う場合に、SLI児が特異な障害を示すことを示唆している(Fukuda, in preparation)。 本年度は、授受表現の中で「...てもらう」という形をとる複合動詞(例:「押してもらう」)の言語実験を作成し、これまでに4名のSLI児を対象に言語データの収集を行った。言語実験では、絵を併用した複合動詞の誘導産出課題を用いた。その結果、使役文や受動文の複合動詞に見られる障害と同様の障害が授受表現の複合動詞の語形成過程でも観察され、上記の仮説の妥当性が裏づけられた。これらの実験結果は、生産性の高い接辞による形態変化を伴うという点で英語のSLIにみられる時制や数の屈折における文法障害と共通するものがある。 また最近の欧米でのSLI研究では、受動文や関係節を含む文など特定の種類の文の意味がわからないという統語理解に関する症例も報告されており、日本語においてもかき混ぜ規則の適用を受けた文や関係節を含む文等の統語理解に障害があるのかを明らかにすることが今後の研究課題として重要であると考えられる。
|