Research Abstract |
本年度の研究の中心は,長崎を中心に演奏された明清楽の曲調を復元することにある。今年度は,長崎県立長崎図書館郷土資料室および長崎市立博物館所蔵の明清楽譜を悉皆調査した。今年度の成果は,ほぼ次のようである。 (1)明清楽の日本への導入は1660年代に始まるが,これらが流行歌となるのは文政年間(1818〜1830)以後であり,清楽の代表的曲目「九連環」およびその替歌とされる「看々節」がそれを先導した。江戸時代の明清楽譜の出版は,この流行を期として開始され,『花月琴譜』(1831年,大坂),『清楽曲譜』(1837年),『月琴曲譜』(1842年),『清風雅譜』(1859年,江戸),『月琴詩譜』(1860年,江戸)などが出版された。これらをすべて撮影し,その異同を調査した。またこれらの楽譜に朱書きでリズムを示しているものがあり,それを手がかりに五線譜化を進めているが,これらのうち,音楽的に理解可能なのは約20曲である。なお,これらの清楽曲の多くは明治期の楽譜にも収録されているので,今後双方をくわしく比較して江戸時代の記譜法の理解を深め,納得のいく形で五線譜化を進めたいと考えている。 (2)明治期の清楽譜は上記の資料館所蔵のものだけでも20種類以上あり,それらをすべて写真撮影した。そのうち,『西泰楽意』(1887年),『月琴雑曲・清楽の栞』(1888年,東京),『月琴俗曲今様手引草』(1889年,東京)には,音長,リズム,小節などを示す記号の詳細な説明がなされており,これに従い約60曲の五線譜化を現在推進中である。 (3)明治期に出版された清楽譜の中には,俗曲・唱歌・民謡など幕末から明治初期にかけての日本で伝承・流布されたものが約20曲見られ,かつ印刷楽譜の裏面に筆写されたものまであることを発見した。メロディーの復元中である。 (4)上記の楽譜の中には,清楽曲・日本歌曲,文部省唱歌に採用された西洋曲などがあり,これらを受容した民衆の感性をさぐる手がかりとして有益と思われる。この点に留意しつつ,来年度に立ち入った分析を行いたい。
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