2004 Fiscal Year Annual Research Report
幕末・明治期における進取的音楽感性の形成に関する歴史的研究-長崎における洋楽・清楽・民謡の相互交流史の復元-
Project/Area Number |
15520412
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
佐々木 隆爾 日本大学, 文理学部, 教授 (10086944)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鍋本 由徳 日本大学, 文理学部, 助手 (30318331)
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Keywords | 進取的音楽観製 / 明清樂 / 清楽曲 / 西洋歌曲 / 邦楽曲 / 沖縄音楽 / 工尺譜 / 工工四 |
Research Abstract |
本年度は,昨年度に引き続き,工尺譜として出版された歌曲集のうち,長崎で伝承され演奏されたことが確実な曲を五線譜化し,広く研究者が歴史資料として利用できるようにする作業を進めた。予定通り,歌曲集に採録された局の中から,演奏されたことを示す痕跡の明らかなもの100曲を五線譜化することができた。演奏されたことを示す痕跡とは,楽譜に朱筆で音長い・休止・装飾音などを示す記号が付されていることを指す。この成果は昨年度の成果と合わせ報告書にまとめた。 この作業の結果,浮かび上がりつつある諸点を次に記したい。第一に,幕末に出版された明楽譜ならびに清楽譜の多くが長崎にもたらされ,愛奏されたことは,多くの記録に示されているが,いわゆる明清楽のうち実際に演奏されたことが確認できるのは,ごく少数の歌曲に限られていることが明らかになった。それらは「九連環」「茉莉花」などの短く親しみやすい歌曲,および器楽曲「中山流水」などで,戯曲的な「三国志」など長大な難曲は,演奏されないまま放置されたと判断される。第二に,明治14年(1881)年出版の文部省『小学唱歌集』所収の西洋歌曲が愛奏され,とくにのちに「蛍の光」として普及するスコットランド民謡など,軽快で明るい曲がよく演奏されたことが明らかになった。第三に,邦楽曲を愛奏する風潮は決して衰えず,恋を語る歌がよく演奏されたことが確認できる。とくに邦楽曲には八度(オクターブ)を越す九度または十度の跳躍が多用されたものが多く,この演奏を容易にするためには月琴などの楽器の助けが必要であったと思われ,そのことを示す記号も散見される。第四に,沖縄音楽,とくに楽天的な雰囲気を持つ曲が愛奏されたことが立証できる。これらを要するに,清国・西洋・日本本土・沖縄などの歌曲が同時に愛奏されることにより,進取的音楽感性が民衆の間に伝播・浸透したと判断されるのである。
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Research Products
(1 results)