2003 Fiscal Year Annual Research Report
11〜13世紀「アイリッシュ海世界」におけるネイションと国家
Project/Area Number |
15520443
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
有光 秀行 東北大学, 大学院・文学研究科, 助教授 (80253326)
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Keywords | 中世史 / ネイション / アイリッシュ海 |
Research Abstract |
本年度は叙述史料の分析を主におこなう予定であったが、バランスよい研究の進展という観点から、やはり文書史料の分析をもすすめることにした。そしてEnglish Episcopal Actaのシリーズや、Scottish History Society、Surtees Societyの出版物などにより、とくに、文書の冒頭部分において「ネイション・アドレス」のあらわれる状況を、一昨年のイングランドにおける学会報告の時点よりもいっそう広範に調査し、その成果の一部を論文「『ネイション=アドレス』再考」に述べた。ノルマン・コンクェスト直後から、王家よりその勢力圏下にある聖俗諸侯へと「ネイション・アドレス」が普及すること、特定の教会にかかわる文書で「ネイション・アドレス」が多く見られること、など、この「アドレス」の史料上の出現状況は、相当あきらかにできた。 一方、年代記などの叙述史料については、とくに『ジョルダン・ファントスムの年代記』の分析から、同書には強い「そともの嫌い」の調子がある一方、「スコット人」への非難がない、などの特徴があることが判明した。同書の著者にはダラムとのかかわりが示唆されるが、こうした地域性が「ネイション」意識を考える上でのひとつのポイントとなり、また、上に述べた文書史料の知見とこうした叙述史料の知見をむすびつけるポイントとなる可能性を認識できた。 さらに、アイリッシュ海の中央に位置する「マンと諸島の王国」について、論文「中世アイリッシュ海風雲録」(タイトルは書肆の要請により一般向きだが、内容は最新の研究状況をふまえている)でその形成過程から崩壊までを本邦で初めて論じることができた。あわせ、「ネイションと国家」にかかわる論点として、その支配者たちの称号と、歴史叙述『マンと諸島の王の年代記』の成立事情を、今後詰めるべき問題点として認識できた。
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Research Products
(2 results)
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[Publications] 有光秀行: "中世アイリッシュ海風雲録"中世ヨーロッパを生きる(甚野尚志, 堀越宏-編 東京大学出版会刊). 15-33 (2004)
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[Publications] 有光秀行: "「ネイション=アドレス」再考"資料が語る中世ヨーロッパ(國方敬司, 直江眞一編 刀水書房刊). 163-178 (2004)