2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15520451
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
吉田 浩 岡山大学, 文学部, 助教授 (70250397)
|
Keywords | 近代史 / ロシア / 法制史 / 慣習法 / 農民 |
Research Abstract |
帝政ロシア政府は19世紀半ばのクリミア戦争の敗北を契機にその後進性を認識し、国家の大改革にとりかかった。その代表的な試みが1861年の農奴解放である。だがロシアでは農奴が解放されてもただちに市民社会や自由労働者は形成されなかった。その主な原因は解放された農民が土地買戻しのために農民共同体にしばりつけられたことであるとして、これまでの研究史は経済的研究に集中した。本研究では農民の法観念、とくに独特の所有権概念が近代ロシア社会を理解する鍵であると考え、農奴解放後から1917年のロシア革命までの半世紀について、3つの柱をたてて研究をおこなった。第一は農民の裁判記録を史料として相続、財産分割問題からロシア農民の所有権意識を析出する作業。第二は同時代の知識人が農民の法意識をどのようにとらえていたのかという論壇における議論の検討。第三は国家による農民身分の法的包摂過程について。実態はどうあれ農奴解放令により農民は法的に動産不動産の所有主体となることが認められ(第33条)、この点に注目すればそれまでの農奴が近代的市民的権利を得たと議論することが可能である。しかし他方、民事刑事の両面で農民は身分として郷裁判所の管轄となり、一般法・裁判体系から隔離された。特に民事関係では条件つきながらあらゆる紛争について地域の慣習を適用することが法的に認められた(第98,107条)。したがって政府にとって全身分共通の法体系を作ることがその後の課題となった。その解決の具体な場として1882年にはじまる新民法典の作成作業と20世紀はじめの二つの政府委員会、「農民立法見直し編纂委員会」と「農民にとって必要な事柄に関する特別審議会」をあげることができる。本年度は第二、第三の論点について論壇での議論や政府委員会の活動を調べるためにモスクワおよびペテルブルクの文書館や国内諸大学の図書館で関係資料を収集した。
|