2005 Fiscal Year Annual Research Report
近世イングランドにおけるカトリック教徒の実態とイメージ
Project/Area Number |
15520455
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
指 昭博 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (90196197)
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Keywords | イギリス / カトリック / フォックス / 殉教者の書 / アイデンティティ |
Research Abstract |
最終年度である本年度は、これまでの2年間の研究をもとに、それらの取りまとめ作業に重点を置いた。その際、検討の中心においたのが、初年度より主要な考察対象としてきた16世紀の神学者ジョン・フォックスの著作『殉教者の書』が、近世イギリスにおけるカトリック教徒の否定的イメージ形成に与えた影響である。この問題を考える上で重要になるのが、フォックスの著作が同時代においてどの程度普及していたのか、カトリック解放以前の17〜18世紀での影響はどのようなものであったのかを見極めることである。従来、ともすれば印象主義的にフォックスの影響が自明のこととされてきたが、今回の検討によって、16〜17世紀には、その書物としての高価さゆえに十分な普及は見込めなかったであろうことが判明した。また、普及版の刊行が影響力を大きくしたと主張される18世紀も、それら諸版の刊行意図などを検討すると、その背景には、むしろ当時、好古史家によるカトリック的な歴史への再評価も進むなど、社会でのカトリックへの寛容な態度が広まっていたことへの危機感があったことがわかり、この時期の『殉教者の書』の刊行は、時代の流れに抗する動きであったことが明らかとなった。これは、近年主張されることの多い、18〜19世紀におけるイギリスのアイデンティティとしてのプロテスタンティズム(反カトリック)の内実を考える上で重要である。むしろ、現実のカトリック教徒への態度と、言説としての「反カトリック」は必ずしも整合性を持っておらず、後者をもって近代イギリスの宗教的状況とすることには慎重でなくてはならないことは明らかである。当然、ここからは、近代史研究において自明の前提とされてきた「プロテスタント国家イギリス」という枠組みをも見直す必要が出てくるだろう。
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