2005 Fiscal Year Annual Research Report
近代イギリスの福祉における個と共同性の関係史-個・相互扶助・国家福祉-
Project/Area Number |
15520471
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Research Institution | Kyushu International University |
Principal Investigator |
高田 実 九州国際大学, 経済学部, 教授 (70216662)
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Keywords | 友愛組合 / 労働組合 / 協同組合 / 老齢年金 / 国民保険 / 相互扶助 / 福祉国家 / 個と共同性 |
Research Abstract |
今年度は申請研究の最終年度に当たるので、労働組合、友愛組合、協同組合が1908年の老齢年金法と1911年の国民保険法にどのように対応したのかをまとめることに主眼をおいた。しかし、結果的には、申請者の準備の遅れから、協同組合についてはまとまった結論を得ることができなかった。 これまでの研究により、次の5点の結論を得た。 (1)労働組合、友愛組合とも、当初は自らの相互扶助制度と競合するとともに、「自助」の原則と対立する国家保険制度に対しては反対の姿勢をとっていたが、それがみずからの制度と補完的な関係にあることを認識するに及んで、基本的に賛成の態度に移った。 (2)その最大の理由は、両者が「認可組合」として保険行政に参加できることが保証されたことにある。また、民間の相互扶助と国家的な相互扶助がアナロジカルな関係にあると認識されたこと、さらにドイツ的な官僚的保険でなく、イギリス的な「自由主義」的な保険であったことも彼らの理解を促した。 (3)国家の側からすると、両者を「認可組合」に権限委譲することで、国家の行政負担を大幅に削減したばかりか、民間の中間団体を国家体制へ動員することができ、帝国主義段階に応じた国家体制の再編を可能にした。ここに、「小さな政府」の強さの秘密があった。 (4)国家保険の成立後は、労働組合、友愛組合ともに国家保険の担い手として組織的には拡大したが、他方では国家への従属を促進することになった。自律的な自助団体は国家との一体感を強める中で、その本来的な性格を後退させた。量的な拡大と質的な衰退いうパラドックスに陥ることになった。 (5)国際比較という視点からすると、イギリスが相互扶助という横のつながりを基礎として国家保険をつくったのに対して、日本は相互扶助、企業福祉、国家福祉、いずれの断面をとっても家族主義的な様相が濃厚であった。 以上の成果について、2005年7月シドニーで開催された第20回国際歴史学会で報告し、英文報告集に要点をまとめた。
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Research Products
(5 results)