2003 Fiscal Year Annual Research Report
「ベケット論争」の再検討――書翰の分析を通して――
Project/Area Number |
15530012
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Research Institution | Hokkai-Gakuen University |
Principal Investigator |
苑田 亜矢 北海学園大学, 法学部, 助教授 (80325539)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
直江 眞一 九州大学, 大学院・法学研究院, 教授 (10164112)
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Keywords | ベケット論争 / 王権 / 教権 / ヘンリ二世 / トマス・ベケット / ギルバート・フォリオット |
Research Abstract |
12世紀後半イングランドで生じた国王ヘンリ二世とカンタベリ大司教トマス・ベケットの間の有名な論争である「ベケット論争」の法的・歴史的意義を、後者によって書かれた書翰の分析を通して再検討することにより、当時の王権と教権の関係について新たな光をあてて、「ベケット論争」を評価し直すことを目的とする本研究において、本年度に達成できた諸点の概要は以下に示すとおりである。 今年度は、第一に、ベケット・グループ、アランの集成、フォリオット・グループの三種類の写本群に分類されるトマス書翰全体に関して、英国図書館・ボドリアン図書館・ランベス宮殿図書館等に保管されている写本のうち主要なものを閲覧し、それらを調査・検討することができた。 第二に、以上の調査・検討を土台にして、トマス書翰の中でもとくに、「ベケット論争」のクライマックスに書かれた重要な二通のトマス書翰、すなわち「フラテルニターティス・ヴェストラエ」書翰および「ミランドゥム・エト・ヴェヘメンテル」書翰について、両書翰がどのような写本のどのような文脈に残されているのかという残存・伝来状況について検討を行なうことができた。その結果、「ベケット論争」のクライマックスに書かれた両書翰が、トマスが殉教・聖別される「以前」に編纂されていた書翰集に収録されていたものであることが確認された。これにより--「ベケット論争」研究については、従来、トマスが殉教・聖別された結果生み出されたトマス伝などによるところが多かったところ--両書翰が、トマスが生きていた間の「ベケット論争」当時の状況を検討するためにより相応しい史料であることが確認された。以上の確認された点に関する成果の一部については、2004年3月に「カンタベリ大司教トマス=ベケット関連書翰の収集と伝来」藤井美男・田北廣道編著『ヨーロッパ中世世界の動態像--史料と理論の対話--(森本芳樹先生古稀記念論集)』九州大学出版会、において公表した。 第三に、「フラテルニターティス・ヴェストラエ」書翰および「ミランドゥム・エト・ヴェヘメンテル」書翰のうち、前者についての内的分析を進め、前者全体の翻訳作業を終了し、一定程度の整理を行うことができた。書翰は大変に長文であるのみならず、内容的にも高度のレトリックが用いられていおり、慎重に作業を進めた。翻訳については、近く公表する予定である。
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Research Products
(1 results)