Research Abstract |
本年度は,日本法との関係では,自営業と雇用の中間的な形態の就労について検討を加え,これらの就労形態において,法的な保護の必要性はどの程度あるのか,そのための法的な規制の手法にはどのようなものが考えられるのかを分析した。その結果,これまでの日本における「労働者」概念に関する議論においてはあまりみられなかった経済的リスクという観点から,新たに「労働者」概念を見直すことができるのではないか,という新たな分析視角を得ることができた。すなわち,これまでの伝統的な考え方によると,経済的リスクの大きさは,労働者性を否定し,事業者性ないし経営者性を肯定する要素と考えられてきたが,実際の要保護性という点では,経済的リスクが高い場合に(とくにそれがリターンの高さと結びついていない場合に)認められることが多いので,経済的リスクが高いということは,労働者性を否定する要素にはならず,むしろ経済的リスクの高さにどのような要素が加われば,労働者性を否定することができるのかの分析が必要であるという考察結果を得ることができた。この点については,すでにドイツにおいて,「経済的リスク」に着目した「労働者」概念に関する学説があることから,今後は,ドイツ法の議論も参考にしながら検討を進めていくこととしたい。 また,本年度は,外国での「労働者」概念をめぐる議論の動向を探るために,イギリスとイタリアの法制について調査を行った。イギリスについては,「労働者」概念において,最近「mutuality of obligation」という要素が重要になっていることが明らかになったが,今後はその詳細な分析を進めていきたい。また,イタリアでは,準従属労働者「lavoratore parasubordinato」をめぐる議論が新たな展開を示していることがわかったため,今後は,その議論をより詳細にフォローすることとしたい。
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