2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15530053
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Research Institution | TAKUSHOKU UNIVERSITY |
Principal Investigator |
守山 正 拓殖大学, 政経学部, 教授 (90191056)
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Keywords | 私事化 / 私刑罰 / CCTV(監視カメラ) / リストラティブ・ジャスティス / ゲイティッド・コミュニティ / 民営刑務所 |
Research Abstract |
本年は最終年であり、これまでの調査研究に対する補充調査も含め、総合的な検討を行った。そこで、「犯罪統制および刑事司法の私事化・民営化」の場面を、次の3点に要約した。基本的にはイギリス(連合王国)の状況を中心に、(1)犯罪予防の私事化としてCCTV(監視カメラ)の設置と市民の反応、ゲイティッド・コミュニティの在り方、(2)刑罰の私事化として地域における私刑罰の実施とこれに代替するリストラティブ・ジャスティス、(3)刑罰執行の私事化の場面として刑務所の民営化とその運用と問題点に分けて考察した。 これらの事項を総合的に分析するために、イギリス(イングランドとウェールズ、スコットランド、北アイルランド)において研究調査を実施し、とくに現場への踏査と現地研究者・専門家からの聞き取り、資料収集につとめた。ケンブリッジ大学ではアントニー・ボトムズ教授、ロレイン・ゲルスソープ上級講師、ハル大学ではトニー・ウォード上級講師、シェフィールド大学のジム・ディグナン教授らから有用な情報および関連資料の提供があった。 上記(1)についてはすでにCCTVについての評価研究が行われ、レスター大学ギル教授の研究グループによる犯罪予防効果が示されており、わが国で設置の続く街頭でのCCTV(監視カメラ)のあり方を問う意義は大きい。ゲイティッド・コミュニティについてはイギリスではあまり発展をみておらず十分に参考になる資料は得られていないが、アメリカの資料が役立つ。(2)については昨年北アイルランドにおける現地調査による資料の分析とその後のクイーンズ大学オマニー講師とマッキボイ教授の議論を総合して検討した。一般には、いわゆる準軍事組織による「私刑罰」からリストラティブ・ジャスティスを経て公的刑罰への回帰が期待されているが、北アイルランドの和平過程の推移によっては今後動揺も予想される。(3)の刑事司法制度の民営化、なかでも刑務所民営化については、イギリスは他のヨーロッパ諸国に比して最も発展を遂げている国であり、全施設数、全収容者数中に民営施設の占める比率は約8%である。しかも今後、政府はこの比率を高める方針を打ち出しており、民営施設は多少の曲折はあるとしても、増加するものと思われる。この状況は、わが国でも民営刑務所が2年後に誕生するが、その有り様に影響を与えよう。 このように、犯罪統制の場面において、事前予防段階での私事化、地域社会における犯罪処理の私事化、および公刑罰による民営化の諸現象を取り上げたが、これらに通底する議論は犯罪統制の非国家化であり、これに、刑事司法の効率化、地域住民参加、企業による市場原理の問題が絡んで複雑な様相を示している。しかし、現代において私事化は否定できない状況であり、結局は国家、あるいは公刑罰とは何かを考える契機を与えていると思われる。
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Research Products
(3 results)