Research Abstract |
本年度は,研究者,矢野,と研究分担者の一人である出井との間での共同研究を中心に研究を進めた.矢野と出井は,Yano-Dei(Review of International Economics,2003)において,国内の第三次セクターを明示的に含む国際貿易モデル(生産連鎖モデル)を構築し,第三次セクターにおける競争政策の国際貿易を通じたスピルオーバー効果を検討した.その研究の基本的な動機は1980年代から構造的に続いている日本の日貿易財セクターの非競争性や国内産業政策が無視することができない影響を貿易相手国に与えている可能性があるという直感である.(そうでなければ,非競争的政策や産業政策が海外からの継続的な批判の的となってきた事実が説明できない.)研究を通じた基本的な発見は,たとえ,非貿易財セクターに関わる国内政策であっても,貿易財の需要に影響し,その結果,交易条件効果を持つという事実である.Yano-Dei論文では,国内市場の競争抑制政策が貿易を縮小するため,関税と類似の近隣窮乏化効果を貿易相手国に対して持つ可能性があることが証明された. 本年度の研究では,Yano-Dei論文の拡張として,ある国の国内市場での競争抑制政策に対し,貿易相手国が報復的な競争抑制政策を課す可能性が検討された.二国モデルの双方の国の政府が戦略的に国内競争政策を採用するゲームが考えられ,両国がともに最適な国内競争抑制政策を設定するような状態がゲームのナッシュ均衡として出現することが示された.この結論は国内市場の非競争性が長期的に持続し,さらに,非関税障壁として国際関係に対し非常に有害である可能性を示唆するものとして,重要であると考えられる. また本年度は,矢野ともう一人の研究分担者である白井も共同研究に着手し,その成果の一部は白井とその共同研究者の共同論文として結実した.また,国内市場の競争性に関する矢野と白井との共同研究も現在進行中である.
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