2004 Fiscal Year Annual Research Report
近世ロンドンにおける移動と貧困-ウエストミンスター貧民尋問書の分析
Project/Area Number |
15530245
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
中野 忠 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (90090208)
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Keywords | 移動 / 貧民 / 尋問書 / ロンドン / 市民 |
Research Abstract |
この研究期間中に、18世紀中葉のウェストミンスターの二つの教区のそれぞれ2年度分の貧民尋問書の転写、整理を終えた。現在、移送命令書など他の救貧法関連資料と照らしあわせながら分析を進めている。研究はなお進行中であるが、これまでの成果の一部は論文にして報告した。おもな結論は次のようなものである。尋問を受けた貧民の移送先ないし教区籍の所在の四分の三以上はウェストミンスターとロンドンの周辺ないし近隣の州であり、三分の一近くは当該教区から数マイル以内の場所であった。この地理的分布は、より地位の高い市民層の出身地分布ときわめて類似している。唯一の例外はアイルランドで、貧民の移送先の12.5%はこの地だった。しかし尋問書で記録された居住経歴から判断すると、1年以上にわたって借家契約を結ぶ例は少なく、貧民の移動性向はきわめて高かったことが推定される。また、教区籍について尋問を受けたものの三分の二は、その教区籍を両親や夫を通じて獲得した女性と子供だった。地理的分布が市民層と大きく異ならない理由のひとつはこれである。教区籍の獲得には、出生、奉公、徒弟、10ポンド以上の地代支払いという4つの方法のそれぞれがほぼ等しい割合でとられた。尋問を受けた貧民のうち、実際に移動命令を受けたのは三分の一弱であり、とくに女性は尋問の後も同じ教区にとどまる可能性が高かった。しかし尋問を受けたもののうち、移送されるものととどまるものを弁別する明確な基準はなく、治安判事の裁量が働く余地がかなりあったと推定される。農村の例と異なって、尋問の時期には季節的な偏りはない。これらの結論は暫定的なものであり、今後さらに分析を進めていくなかで最終的な結論をえたい。なお、救貧や貧民尋問書についてのサーヴェイも平行して行い、その成果の一部も研究ノートとして発表した。
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Research Products
(2 results)