2004 Fiscal Year Annual Research Report
イタイイタイ病およびカドミウム中毒問題の被害・加害構造に関する環境社会学的研究
Project/Area Number |
15530330
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
渡辺 伸一 奈良教育大学, 教育学部, 助教授 (70270139)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤川 賢 明治学院大学, 社会学部, 助教授 (80308072)
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Keywords | イタイイタイ病 / カドミウム / 骨軟化症 / 梯川 / 市川 |
Research Abstract |
石川県梯川流域と兵庫県市川流域のイタイイタイ病(イ病)問題についてまとめる。 石川県厚生部『梯川流域住民健康調査報告書』(1984年)では、「X線所見で骨改変層を認め、骨軟化症が疑われる者は3名のみであった」(37頁)とされ、"骨軟化症が疑われる者"という表現になっている。また、小松保険所『昭和58年度事業報告書』では、「女2名に骨軟化が認められた」(162頁)、『昭和59年度事業報告書』では、「女1名に骨軟化が認められた」(119頁)とされ、"認められた"と断定的に書かれている。他方、『昭和59年度版石川県環境白書』には、「エックス線所見では・・・骨粗鬆症所見が認められた」とあるのみで、骨軟化症についての言及がない。そして、その上で、「これまでの調査では本県においてはイタイイタイ病の存在は否定された」と結論づけられている(175頁)。他方、金沢医科大学と金沢大の研究者は、骨軟化症(軽症・中症例)が発見されたので、イ病患者が存在した、とする論文を発表しており、行政と研究者との間の見解の相違が判明した。こうした相違をどう解釈するか、が今後の課題である。 市川流域では、元金沢大の石崎・能川グループが、数例のイ患者を発見し、論文にまとめている。また、元富山医科薬科大の北川教授も、最近同じ事例をイ病だと認める論文を書いている。他方、兵庫県及び環境省研究班は、これらの事例をイ病=骨軟化症とは認めていない。市川流域では梯川とは異なり、1970年代に地元医師、被害者(家族)、兵庫県高教祖、弁護士らが一体となって被害者救済のための運動を展開していた。富山イ病では、裁判が提起されたように、市川イ病問題も裁判提起の条件が整っていた。にもかかわらず、なぜそうならなかったか。最大の理由は、運動がなくなってしまったからだと考えられるが、なぜ途絶えたのか。市川イ病問題ではこの点の解明が今後の最大の研究課題である。
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