Research Abstract |
本年度は,怒り経験とその鎮静化過程について,個人内要因・怒りの抑制要因に関する検討を行った.【研究1】では中学生約2900名を対象に,【研究2】では大学生約380名を対象に調査を行った. 質問紙では,まず強い怒りを感じた出来事を1つ思い出してもらい,感情(怒り・抑うつ),認知(肥大化・客体化・自責化・終息化),行動(攻撃行動・社会的共有・物への転嫁)の実行度,について評定させた.また,抑制要因については複数選択させ,個人内要因(自己愛・言語表現力)について評定させた. その結果,中学生では,自己愛が怒り・抑うつの感情と,肥大化・終息化の認知を促進し,それらを通して,攻撃行動,社会的共有,物への転嫁といった怒りを表出する行動を促進していることが明らかになった.一方,言語表現力は,客体化と自責化の認知を促進し,客体化の認知を介して,怒り表出行動を抑制し,自責化の認知を介して,怒り表出行動を促進していた.最後に抑制要因については,男子は損得意識のみが,女子は規範意識のみが,抑制的な効果を示していた. 一方,大学生では,男子においては言語表現力が,女子においては自己主張性が,怒りの感情を抑制し,それによって,攻撃行動・社会的共有・物への転嫁といった怒り表出行動を抑制していることが明らかとなった.男女共通の部分として,優越感・有能感が,肥大化の認知を促進していた.また,怒り経験を冷静に受け止めることができるほど(客体化),攻撃行動や物への転嫁といった表出行動を抑制していることが示された.さらに,終息化の認知は男女とも,物への転嫁を促していた.最後に,抑制要因については,女子において,人間関係に配慮することが攻撃行動を抑制し,男子は自己像を考慮するほど社会的共有を高めていることが,明らかとなった.
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