Research Abstract |
目的と方法 平成15年度と16年度の研究から,明示性の異なる標識が高齢者の手順文記憶に及ぼす効果が示された。これらの知見を統合し,以下の4点を総合的に検討した。第1は,明示性の異なる標識が体制化方略の変更に及ぼす効果を検討することであった。第2点は,明示性の異なる標識が記憶レベルに及ぼす効果を検討することであった。第3点は,明示性の異なる標識によりもたらされる標識化の効果に介入する加齢の影響の検討であった。さらに,以上3点の検討を踏まえて,第4に,高齢者における手順文の記憶に及ぼす標識化効果に関するメカニズムを共分散構造分析により検討した。実験参加者は,65歳から74歳の高齢者90人と,18歳から23歳の若齢者(大学生)90人となった。高齢者と若齢者は,それぞれ3群に分けられた(非明示群,低明示群,高明示群)。ドーム型照明器具の取付の手順文を課題に用いた(アンダーラインを伴った見出し等を用いて最上位手順の明示性が操作された)。 結果と考察 文配列課題ならびに再構成課題を実施し,1)体制化方略の変更への効果,2)記憶レベルへの効果,3)効果に介入する加齢の影響,が検討され,これを踏まえて,標識化と加齢が方略変更を介して記憶レベルに及ぼす効果を共分散構造分析によりモデル化し,分析した。外生変数は標識化(無=0,有=1)と加齢(若齢者=0,高齢者=1)であり,これらの相関は自由母数とした。AMOS4.0において最尤法を用いて自由母数の推定を行った結果,適合度指標としてx^2(1)=2.60,GFI=.995,CFI=.994,RMSEA=.094が得られ,モデルは適合していると判断した。共分散構造分析の結果から,明示性の低い標識から方略変更を介した体制化レベルへのパスが有意に認められ,制化レベルから記憶レベルへのパスが有意に認められた。また,明示性の高い標識から記憶レベルへの直接効果が有意に認められた。加齢については,方略変更を介した体制化レベルへの間接効果とともに,体制化レベルへの直接効果が認められた。記憶レベルには加齢の直接効果は認められなかった。以上の結果を総合して,明示性の異なる標識が体制化方略の変更を促す程度を介して,記憶レベルへ効果をもたらす認知加齢メカニズムが解明された。
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