Research Abstract |
申請者たちの研究グループがこれまでに蓄積してきた記憶リハビリテーションに関する実証的データの中から,特に予測通りの効果が得られなかった条件や事例に注目し,その原因を理論的に究明した.さらに,そうした不一致を克服するための新たな手続きを提唱し,その効果を実証的に検討した. 本年度は,誤り排除-努力喚起型と位置づけられ,記憶障害者にとって最適な手続きであると予測された手がかり消失法が,これまでのリハビリテーションの実践においてなぜ有効ではなかったのかという問題を,理論的観点から検討した.これまでの実践の中では,誤り排除型という位置づけに反して,手がかり消失法を用いた訓練場面でも,記憶障害者たちは多くの誤反応を生起させていた.そこで,こうした誤反応の発生を防ぐために,新たに知覚的マスキング手がかりの導入を提案した.実証的検討の中では,2次元学習モデルに基づき誤りと努力要因を交差させることによって,誤り排除-努力喚起型「知覚同定」,誤り排除-努力排除型「対連合」,誤り喚起-努力喚起型「生成」,誤り喚起-努力排除型「再認選択」から成る4種の学習条件を設定した,コルサコフ症候群患者12名を対象に,これら4種の学習手続きを実施した後,その効果を,自由再生,手がかり再生,知覚同定から成る3種の検査によって比較検討した.その結果,自由再生検査では学習条件間に有意差は認められなかったものの,手がかり再生検査では,知覚同定条件は対連合と再認選択条件に比べ成績が有意に優れていた.さらに,知覚同定検査では,知覚同定条件は他の3条件に比べ,より少ない手がかりで正答に到達できることが判明した.これらの結果より,誤り排除-努力喚起型学習が記憶障害者にとって最適な訓練手続きであることが裏づけられた.
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