Research Abstract |
P300と呼ばれる事象関連電位は,有意味な刺激に対する情報処理を反映するため,虚偽検出の有効な指標となることが認められている。しかし,多くの研究は,検査直前に模擬窃盗課題などで被験者が選択した物を検出対象としている。ところが,実際の犯罪捜査での虚偽検出は,犯行の日に検査することは極めてまれである。そこで,平成15年度の研究では,P300による虚偽検出が1ヶ月経過後でも有効であることを明らかにした。但し,10名中2名の被験者は選んだ貴金属(裁決項目)を再認できず,裁決項目に対するP300振幅も増大しなかった。 したがって,平成16年度の研究では,映像による模擬窃盗場面の事前呈示を行い,記憶の文脈効果による記憶の活性化を図り,再認効果及び正検出率を向上させる実験を行った。なお,実験は,統制群としてビデオ鑑賞せずに検査を受ける実験と,模擬窃盗課題とは無関係の中立的ビデオを観賞後に検査を受ける実験の2つを行った。被験者は犯罪場面呈示群10名,統制群10名とした。検査は脳波を測定しながら,5つの貴金属の画像をランダムな順序で呈示した。刺激呈示間間隔は2500msとし,加算平均回数は20回以上とした。被験者には「脳波の検査によって,選んだ貴金属を検出されないように努力してください。」と教示した。 その結果,統制群と比較して模擬窃盗場面を事前呈示した群で,P300振幅が有意に増大することはなかった。但し,統制群である中立的ビデオ(大学風景)の事前呈示と比較して,個別判定の正検出率及び他の事柄(たとえば,貴金属の保管場所,犯行時間帯)に対する再認率が優れていたことは,犯罪場面の事前呈示が記憶の促進効果として働く可能性を示唆した。特に,犯罪捜査では1年を越える検査も実施されており,より長期間経過後の検査時には検出率の向上に大きく寄与する可能性が期待できる。
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