2005 Fiscal Year Annual Research Report
ラテンアメリカにおける教育改革と国際教育協力に関する総合的研究
Project/Area Number |
15530552
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
江原 裕美 帝京大学, 法学部, 教授 (40232970)
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Keywords | 初等教育 / 市営化 / 地方分権化 / ブラジル / 国際教育協力 / 万人のための教育 / 学校運営 |
Research Abstract |
本研究は、ブラジルの初等教育改革と国際教育協力の進行状況と内容を文献調査、および実地調査から分析した。 現在ブラジルで最も広範囲な改革が進められている初等教育改革は、1985年からの段階的民政復帰、1988年の新憲法制定により示された方向を、1990年代を通じて実現する過程である。1993年の「万人のための教育」計画、1995年の国家カリキュラム基準の制定、1996年の新連邦教育法、1998年の初等教育振興基金(略称FUNDEF)、2001年の国家教育計画、等がその過程を示している。成果としては、1990年代において、ブラジルの初等教育純就学率は五大地域いずれにおいても90%を超え、統計上は、ほぼ普遍化を達成したといえる段階に到達した。バスなど通学手段を保障し、給食の実施による栄養の改善など、質向上への取り組みも見られる。 その重要な背景は、ラテンアメリカ諸国で共通して実施されている初等教育の地方分権化である。ブラジルでは、初等教育は州、市町村によって分担されているが、それを州から市に移管する「初等教育の市営化」が1980年代に部分的に試行され、1990年代後半に大きく進んだ。五大地域のうち、市町村への移管が遅れていた南部、南東部でも市営化が急速に進んでいる。2000年、初等段階では市立学校在籍者数が州立学校在籍者数を超えた。 本研究ではブラジル最大の人口を抱えるサンパウロ州を取り上げ、地方分権化はFUNDEF、市営化、学校運営の民主化という方面から進められていること、この動きが1980年代から開始された学校給食の市移管等を端緒に、1990年代後半に「州-市パートナー化計画」とFUNDEFによって加速化されたことを明らかにした。また、市営化が住民のニーズ対応に優れている反面、市政治との接近が起こり、住民社会の民主化が重要であることを指摘した。 このような動きに国際教育協力は特に北部、北東部、中西部で大きく関わっている。それら地域では、世界銀行と教育省との共同プロジェクトとして、学校の物理的基盤を改善し、学校運営を合理化するための総合的な取り組みが行われている。このプロジェクトは各学校の問題点を教職員自身が診断把握し、教育成果を出すために取られるべき措置をマニュアルに沿って体得する学校運営改善モデル、物理的ニーズを解決するための申請ベースの資金供与、その他の部分からなっており、学校管轄当局に年度ごとに供与される資金を漸減させて、学校運営における自治体の自律を目指すものである。このほかに、青少年問題解決のための協力をUSAIDが、職業訓練方面を米州開発銀行が協力するなどの国際教育協力が行われている。 初等教育の標準年齢以外の在籍割合が高いこと、中等教育は今後急速な拡大が見込まれること、高等教育の非効率性、負担に関する階層間の矛盾などの問題解決に向けて、国際教育協力は今後も必要とされると予測される。
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