Research Abstract |
近年,freak waveやrogue waveなどと呼ばれる,比較的静穏な海洋波浪場中に突如出現する非常に大きな波高を持つ海洋波の存在が,船舶の安全運航や海洋構造物への衝撃力などとの関連で,大きな注目を集めている.本研究では,昨年度までの研究で構築した,非線形水面波動場用の高速高精度の数値シミュレーションコードを駆使して,このfreak waveの出現と波動場の非線形性の程度,すなわち単位面積あたりのエネルギー量Eの関係を調べた. ある固定したEの値に対して,各成分波の位相のみが異なり,スペクトル的には皆,海洋波浪場の標準スペクトルの一つであるPierson-Moskowitzスペクトルに対応するような不規則波動場を多数(1500個ほど)用意し,そのそれぞれの時間発展を,シミュレーションコードによって,非線形水面波の基礎方程式に従って決定論的に追跡した.このような計算から得られた370万個以上に及ぶ膨大な波高データに基づいて,波高分布,freak waveの出現確率,最大波高などを算出した.その結果,Eが増大して波動場の非線形性が大きくなるにつれて,freak waveの出現確率や最大波高が単調に増大することが分かった. 線形不規則波動場の波高分布に対する標準理論であるRayleigh分布は,大波高波の出現確率を過大に評価することが従来から指摘されている.本研究においても,Eが小さく非線形性が重要でない状況では確かにそれを確認する結果が得られた.しかしEが増大し非線形性の効果が重要になるにつれて,大波高波の出現確率は次第に増大し,あるEの値を境に,それまで大波高波の出現確率に対して過大評価で安全側にずれていたRayleigh分布が,逆に過小評価という危険な状況に陥ることが明らかになった.さらに重要と思われるのは,この遷移が,非現実的に大きな値ではなく,通常いくらでも起こる程度のEの値において起こるという事実である.
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