Research Abstract |
本研究の研究目的を達成するため,本年度は房総半島に分布する中新統および更新統と太平洋低緯度海域で掘削された深海底コアを用いて,そこから産出する石灰質ナンノ化石,珪藻化石および放散虫化石の検討を行った.その結果,それぞれの化石の群集組成が海洋環境に連動してあきらかに変化していることが確認された.あわせて,本年度はとくに炭酸塩コンクリーションの形成要因についての検討を詳しく行った.研究対象とした地層群は,房総半島の天津層と銚子地域の小浜層で,それらから産出する炭酸塩コンクリーションを観察するとともに,その地球化学的性質を明らかにした.その検討の結果,天津層,小浜層とも,コンクリーションを形成するほとんどが自形のドロマイトあるいはカルサイトであり,同時に行った酸素ならびに炭素同位体比の分析によれば,それらの値はそれぞれ+5〜+7‰,-25〜-10‰であった.これらのことから,コンクリーションを形成した炭酸塩鉱物が,地下深くに埋没した後に続成作用でできたものではなく,海底面下わずか数10mの非常に浅い深度,いわゆる硫酸還元帯において,堆積した有機物が分解することによって形成されたことがわかる.また,堆積速度の遅い層準で有機物が濃集したため,特定の層準にのみ炭酸塩コンクリーションが偏在したことも指摘できる.これらのことは,海洋表層からのフラックスの増減に対応して海洋底層環境が変動していることを示しており,あらたな知見である.本邦周辺においてひきつづき陸上セクションを調査することにより,このことと底生生物活動についても検討する必要がある.来年度,表層一次生産者グループ,底生生物の変動,そしてコンクリーション発達が,海洋環境変化とどのような関係にあるかを解明し,グローバルな気候システムの変遷史との関連について考察するつもりである.
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