Research Abstract |
今年度は,化石に関しては,中〜南九州における後期鮮新世の貝形虫群集組成を明らかにするため,宮崎層群高鍋層を対象に研究を行った.結果として,77種の貝形虫化石が同定され,これらの多くは黒潮暖流の影響が強い陸棚中〜下部砂泥底に現生する種でBicornucythere bisanensis, Trachyleberis spp.などの内湾性種もいくつか認められた.さらに,群集の周期的変動が3回存在することが明らかとなり,これはミランコビッチサイクルに対比される可能性があると推定された.現世に関しては,今年度はトカラ海峡北方の鹿児島県薩摩川内市上甑島の浦内湾と海鼠池で,群集解析用とDNA分析用のための表層堆積物を採取し,水質の調査も行った.浦内湾では主として船上から採泥器を用いて32地点で表層堆積物を採取し,海鼠池では9地点より表層堆積物と海藻試料を採取した.浦内湾の30試料から貝形虫を抽出・同定した結果,少なくとも148種の内湾〜沿岸性種が含まれていることがわかった.数量的群集解の結果,これらは6つの貝形虫相にまとめられ,主に水深と底質の種類に関連していることが明らかとなった.昨年度調査を行った奄美大島の笠利湾の群集と比較検討した結果,共通点はどちらも湾沿岸砂底種であるLoxoconcha uranouchiensisが最も多く,日本の広範囲に優占する内湾奥泥底種のうち,Spinileberis quadriaculeataは生息しているが,Bicornucythere属が認められないことである.これは両湾とも透明度が高く,溶存酸素量も多いことよると推定される.また,浦内湾には奄美大島以南の亜熱帯〜熱帯海域に多産する種が極めて少ない.特に,Neomonoceratina delicataという中〜後期更新世に本州から九州で繁栄した種が,浦内湾に生息しないことが明らかとなったので,トカラ海峡の存在がこの種の分布の障害になっていることが確かめられた.
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