Research Abstract |
本研究では高温高圧下で透過波と反射波の両者を観察し,2つの波のトラベルタイムの差とスペクトル比をとることにより,試料のみに固有の速度とQ値を同時にしかも正確に決定する手法を開発した.岩石や鉱物試料の測定では,バッファーロッドとして音響インピーダンスのかなり高いものを用いれば,透過波と反射波の両者を十分な精度で測定できる.反射波には,透過波のパスに試料部のみを一往復余分に伝わったパスが加わっており,両者の観察から,温度勾配のため速度とQ値のわからないバッファーロッドの効果は相殺される.高インピーダンスのバッファーロッドとして白金を用い,試料として高温高圧物性が調べられている石英ガラスを使用し,縦波の速度とQ値を1GPaで1200℃まで測定した.測定結果は石英ガラスについて報告されている値を再現し,今回の手法が高温高圧物性測定に適用可能であることを示した.速度は20℃,660℃,1185℃でそれぞれ5.52,5.97,6.39km/sであった.またQ値は昇温により急激に減少し,1100℃で72,1185℃で37であった. さらに角閃岩についてソリダスを超える温度まで測定し,部分溶融による速度とQ値の急激な低下を認めた.角閃岩のソリダス近傍で速度は6.17km/s,Q値は15と低く,10%を超える部分溶融の発生で速度は5.90km/s,Q値は7と小さい.これらの物質について1GPaでこのような高温でQ値を測定した例はなく,本結果は先駆的なものである.Q値は温度や流体量と共に急激に変化し,また高温における岩石・鉱物の塑性や流動性とも関連し,弾性波速度と並んで非常に重要な基礎的物性量である.今回の角閃岩ソリダス周辺での低速度・低Q値は,日本列島の火山フロントから背弧側の下部地殻で認められる顕著な低速度・低Q値と調和的であり,火山下の下部地殻に部分溶融の存在が示唆される.
|