2003 Fiscal Year Annual Research Report
生理活性分子の励起状態ダイナミックス:ピコ秒・ナノ秒時間分解振動分光法による研究
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15550018
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
高橋 博彰 早稲田大学, 理工学部, 教授 (40063622)
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Keywords | 分子構造 / 電子状態 / 分子分光 |
Research Abstract |
ソラーレン(Ps)とその誘導体、5-メトキシソラーレン(5-MOP)および8-メトキシソラーレン(8-MOP)、は古くから乾癬などの皮膚病の光治療薬として用いられている。本年度は、これらの化合物について、光励起により生成する過渡分子種のピコ秒・ナノ秒時間分解吸収スペクトルおよびナノ秒時間分解ラマンスペクトルを測定するとともに、電子励起状態のab initio分子軌道計算を行うことにより、光反応ダイナミックスに関して以下のことを明らかにした。(1)8-MOPの光反応はPsや5-MOPの光反応と比べて大きく異なることが分かった。Psと5-MOPでは、350nmと580nm付近に最低励起一重項状態S1の吸収ピークがOpsから観測され、時間とともに強度を減衰して3nsでは完全に消失する。また8ps頃から最低励起三重項状態T1の吸収ピークが450nm付近現れ始め、時間とともに次第に強度を増大する。これに対して8-MOPでは、S1の吸収ピークは420nmと650nm付近に観測され、500ps後には完全に消失する。また、T1の吸収はピコ秒の時間領域では450nm付近の波長領域には観測されない。(2)ab initio分子軌道計算結果から8-MOPではT1状態においてピロン環の0-C結合が開裂するすることが示された。この結果は、ピコ秒・ナノ秒時間分解吸収スペクトルによる実験結果をよく説明するものである。(3)ソラーレンやその誘導体を皮膚病の光治療薬として使用したとき、光毒性や光アレルギー性などの副作用が起こることが知られている。これはソラーレン誘導体がT1状態においてDNAの二重らせんの間に架橋するためと考えられている。8-MOPはPsや5-MOPと比べて副作用が小さいことが知られているが、このことは8-MOPがT1状態でピロン環の開裂を起こすため架橋を行えないためとして理解される。
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Research Products
(4 results)
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[Publications] M.Mizuno, K.Iwara, H.Takahashi: "Time-Resolved Infrared and Raman Studies of benzil. Vibrational Analysis and Structure of the Excited States"Journal of Molecular Structure. 661-662. 3-10 (2003)
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[Publications] G.M.Kuramshina, T.Mogi, H.Takahashi: "Structures and Vibrational Spectra of 5H-Dibenz[b,f]azepine and 5H-Dibenzo[a,d]cyclohepten-5-ol on the Basis of Quantum Mechanical Calculations"Journal of Molecular Structure. 661-662. 121-140 (2003)
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[Publications] R.Hiyoshi, H.Hiura, Y.Sakamoto, N.Mizuno, M.Sakai, H.Takahashi: "Time-Resolved Absorption and Time-Resolved Raman Spectroscopies of the Photochemistry of Carbazole and N-Ethylcarbazole"Journal of Molecular Structure. 661-662. 481-490 (2003)
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[Publications] A.Nakata, T.Baba, H.Takahashi, H.Nakai: "Theoretical Study on the Excited States of Psoralen Compounds based on a Thymine Residue"Journal of Computational Chemistry. 25(2). 179-188 (2003)