Research Abstract |
光誘起電子移動(PET)反応に関する課題においては,ベンゾフェノンの光還元をプローブ反応として1,3-ジメチル-2-フェニルベンズイミダゾリン(DMPBI)および2-(2'-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジメチルベンズイミダゾリン(o-HPDMBI)のPET反応性について調査した結果,両者のラジカルカチオンの脱プロトン化の位置選択性に顕著な違いが見られた。すなわち,DMPBIラジカルカチオンでは2位の炭素上の脱プロトン化が,o-HPDMBIラジカルカチオンでは2位の炭素上ではなくフェノール部位の脱プロトン化が優先することが明らかとなった(J.Org.Chem.に発表)。特に後者の位置選択性は基質特異的なものか普遍的なものかについての検討が今後の課題となる。また,電子供与性置換基を有するピレンおよびアントラセンを増感剤とし,DMPBI,o-HPDMBIおよび他のベンズイミダゾリン誘導体を還元剤とする複合光増感系の比較評価を行い,ピレンがアントラセンよりも優れた増感剤であることが明らかとなった(Tetrahedronに印刷中)。今後は,ピレン増感剤を用いる種々の有機化合物の還元的分子変換の一般性の拡張を目指す。一方,金属酸化還元剤による分子変換に関する課題においては,ハロケトンのサマリウムバルビエ反応で得られるビシクロ[n.1.0]構造のシクロプロパノールをシリルエーテルに変換し塩化鉄(III)による酸化反応を行ったところ,位置選択的に架橋結合が開裂し環拡大した環状ケトンを与え,塩基による処理でエノンへと導かれた。次に,シリルエーテルを調整せず,サマリウムバルビエ反応性生物を単離することなしに一つのフラスコ内で一気にエノンへ導く反応を試み,成功した(Chem.Lett.に発表)。この反応では,塩化鉄(III)とともにピリジンの添加は必須であり,ピリジン非添加条件では,異なる結合開裂選択性を示した。このワンポット反応により操作工程の省略化および目的物であるエノンの収率向上が達成された。
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