Research Abstract |
高圧下で分子性物質の静磁化率を測定するための圧力セルなどの準備を15年度から進めてきた.16年度には,実際に測定に用いてみて,定量性・信頼性のあるデータを得るための方法を確立するべく,予備実験をおこなった.圧力セルからのバックグラウンドが大きいので,セルの磁気的対称点に試料をセットすることと,試料の正確な位置決めが,結果を大きく左右する.超伝導反磁性など強い信号を与えるものでも,少量の場合にはバックグラウンド信号の起伏の影響で不正確な結果を与えるので注意を要する.この問題に対応するため,多結晶試料を充填するカプセルと石英スペーサーのはめ合いの改良と,対称バックグラウンドを作り出すための軟強磁性マーカーの試験をおこなった.その結果,準備した圧力セルを使って定量性・信頼性のあるデータを得る手順がほぼはっきりしたので,17年度にかけて,準三角格子型のフラストレーションや二量体内HOMO-LUMO準位交差による価数不安定性を示す【Pd(dmit)_2】塩や,分子性導体で唯一の遍歴電子磁性を示す(DI-DCNQI)_2Cuなど,興味ある磁性を示す金属錯体系分子性導体に適用していく. 一方,【Pd(dmit)_2】塩がフラストレートした常磁性状態(短距離相関のみが支配的)から,量子臨界点に対応したある温度より低温でクロスオーバーし,反強磁性相関が成長して長距離秩序に至る機構が,異方的三角格子の特徴を考慮した原子価結合(VB)モデルによって,フラストレーションをVBの配向,あるいは非結合性スピン状態に関するボーズ量子励起によるものと捉え直せば統計力学的に理解・説明できることがわかった.このクロスオーバーの現象論的側面については,二量体特有の電子相関と価数不安定性の問題とあわせて,すでに公表してきた.次年度にかけて高圧下磁気測定によるその機構の実証を目標とする.
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