Research Abstract |
世界遺産に指定されている春日山原始林特別天然記念物指定域(34°41'N,135°51'E;298.6ha)の照葉樹林(コジイ,ツクバネガシ,アカガシなどブナ科の常緑広葉樹を優占種とする)に,ナギPodocarpus nagiおよびナンキンハゼSapium sebiferumが侵入しており,照葉樹林の動態に大きな影響を及ぼす可能性が危惧されている(Maesako et al.2003;前迫ほか2003,2004,名波ほか2003,山倉ほか2001).両種は奈良公園一帯に生息するニホンジカ(天然記念物)が採食しない種であり,特別天然記念物である照葉樹林,天然記念物のシカ,天然記念物のナギ群落(春日山原始林に隣接する御蓋山に成立)そして奈良公園一帯に植栽されているナンキンハゼが相互に関与することにより,照葉樹林への移入種の侵入・定着・拡大が進行していることが本研究により,数量的に明確になりつつある. 野外調査は2002年4月に奈良公園側の春日山原始林域西端から調査を開始し,2003年11月までに約90haを踏査した.当年生実生を含む全個体または個体パッチの位置をGPSを用いて記録し,両種の分布をGIS (Arc view)を使用してサイズ別に地図上に示し,侵入と拡大領域をほぼ把握した. 林冠タイプをギャップ,ギャップ辺縁,疎開林冠および閉鎖林冠に区分し,個体数比率を算出した結果,ナンキンハゼ(N=9131),はそれぞれ74.2%,11.0%,13.4%,1.5%,ナギ(N=7566)はそれぞれ5.0%,6.9%,48.9%,39.3%であり,ナンキンハゼの侵入とギャップ形成との対応が明確であった.両種の個体数とシードソースからの距離との関連性を検討した結果,ナギは方位性においてそれぞれ負の有意な相関が認められた.一方,ナンキンハゼはいずれの方位においても有意な相関は認められなかった. 2004年にさらに調査域を拡大し,春日山原始林特別天然記念物エリアの3分の1にあたるおよそ120haの踏査を終え,両種の分布・拡大のデータ解析を行っているところである。
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