2003 Fiscal Year Annual Research Report
昆虫における行動補償と神経系の可塑性についての研究
Project/Area Number |
15570065
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
加納 正道 愛媛大学, 理学部, 助教授 (80183276)
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Keywords | コオロギ / 空気流感覚 / 尾葉 / 逃避行動 / 行動補償 / 巨大介在神経 |
Research Abstract |
フタホシコオロギは腹部末端に1対存在する尾葉上の機械感覚毛で体の周囲の空気の動きを感じ取ることにより捕食者等の接近を知り、逃避行動を解発する。逃避の方向はほぼ刺激源と反対方向であることから、正確な空気流方向の認識がなされていることがわかる。片側の尾葉を除去すると逃避の方向が不正確になるが、約2週間で補償的な回復、すなわち正確な方向への逃避行動を示すようになる。しかしながら、自由に動けない拘束飼育では、そのような補償は生じない。このことから申請者は、このような行動補償には自身が動くことによって生じる残された尾葉感覚系への自己刺激が必要であること、またその際の運動出力のコピーシグナル、すなわちEfference copyが神経系の変化に必要であるという仮説を提唱してきた。これまで、そのようなEfference copyを担うと思われる介在神経が腹部神経索内に存在することを報告してきたが、今回それらの存在および情報のコード様式を再確認した(論文投稿中)。一方、Efference copyを用いての神経系の再構築が実際のものであるなら、最終的な補償の程度は回復期間中に経験した補正の回数、すなわち運動量(歩行距離)に比例すると考えられる。そこで、片側尾葉除去後のコオロギの回復期間中(14日間)の運動量をイメージセンサーを用いて測定した。単独飼育あるいは集団飼育と飼育条件を変えることによって、異なる運動量のコオロギを得ることができた。それらのコオロギの空気流刺激に対する逃避行動を調査したところ、補償的回復の程度は回復期間中の運動量と相関が見られた。また、人為的刺激(接触刺激)により強制的に運動量を増加させた場合でも、同様に逃避方向の補償的変化が見られた。これらの結果から、当初の仮説の正当性が行動学的に証明されたと考えられる。
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Research Products
(7 results)
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[Publications] 松浦 哲也: "Postembryonic changes in the response properties of wind-sensitive giant interneurons in cricket"Journal of Insect Physiology. 49・9. 805-815 (2003)
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[Publications] 森田 真介: "Distribution of water receptors on the cricket legs and their response patterns"Comparative Biochemistry and Physiology. 136B : 3. 561 (2003)
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[Publications] 近藤 裕介: "Relation between the amount of locomotion and the degree of behavioral compensation after unilateral cercal ablation of the cricket, Gryllus bimaculatus"Comparative Biochemistry and Physiology. 136B : 3. 563 (2003)
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[Publications] 森田 真介: "Distribution of water receptors on cricket's leg and the elicitation of a swimming behavior"Zoological Science. 20・12. 1572 (2003)
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[Publications] 松浦 哲也: "Postembryonic changes in the efficacy of excitatory and/or inhibitory sensory inputs to giant interneurons in the cricket"Zoological Science. 20・12. 1583 (2003)
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[Publications] 近藤 裕介: "Compensational recovery of an escape direction in a unilaterally cercal ablated crickets and the amount of locomotion during the recovery period"Zoological Science. 20・12. 1584 (2003)
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[Publications] 加納 正道: "Functional changes of cricket giant interneurons caused by chronic unilateral cercal ablation during postembryonic development"Zoological Science. 21・1. 7-14 (2004)