Research Abstract |
GPIアンカー型タンパク質は,リン酸エタノールアミンを介してトリマンノース,グルコサミン,及びホスファチジルイノシトールが結合した膜タンパク質で,脳・神経系では神経網形成などにおいて重要な役割を果たしていると考えられている.GPIアンカー型タンパク質のタンパク質部分には複数のN結合型糖鎖が付加しており,発生や疾患に伴って変化することが示唆されているが,膜タンパク質のため精製が難しいことや,分子構造が複雑であることなどから,糖鎖の構造や機能については明らかにされていない.本研究の目的は,脳に発現するGPIアンカー型タンパク質の糖鎖の構造と,神経網形成などにおける糖鎖の役割を明らかにすることである.そこで本研究では,電気泳動等を用いたGPIアンカー型タンパク質の簡便な単離とLC/MS/MSを用いた糖鎖解析からなる脳に発現するGPIアンカー型タンパク質の糖鎖解析法の開発,並びにその分析法を用いた病態に伴う糖鎖構造変化の解析を行う.本年度は,イオントラップ型MS及び高分解能MSのハイブリッド型MSを用いた糖鎖解析法を開発し,ラット脳からSDS-PAGEで単離したThy-1の糖鎖構造解析を行った. 生後3週間のラットの脳をホモジネートし,TritonX114処理により膜画分を可溶化した後,温度依存性相分離を利用して膜画分を分画した.アセトン沈殿後,得られた膜画分から,ホスファチジルイノシトールポスホリパーゼC消化によってGPIアンカー部分を切り離し,可溶性のタンパク質部分を回収した.この可溶性膜画分をSDS-PAGEで展開し,ゲル内トリプシン消化及びLC/MS/MS分析を行い,20-25kDaのバンドをThy-1と同定した.Thy-1のバンドからゲル内PNGase F消化によりN-結合型糖鎖を遊離させた後,NaBH_4で還元化糖鎖とした。そして,グラファイトカーボンカラム-LC/リニアイオントラップMS/高分解能MSを用いて,Thy-1由来糖鎖の解析を行った.その結果,Thy-1に結合する糖鎖の単糖組成はNeuAc_<0-3>dHex_<0-3>Hex_<3-8>HexNAc_<1-5>HexNAcNAcol_1と決定された.さらに,多段階MS分析の結果,ラット脳Thy-1の糖鎖は主に,高マンノース型糖鎖(Man5,Man6,Man7及びMan8),及びNeuAc O-3分子及びFuc 0-3分子を含む複合型及び混成型糖鎖であることが明らかにされた.
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