Research Abstract |
生活習慣と社会環境の変化にともなって,インスリン抵抗性から糖尿病に移行する比率が急速に増加している.申請者はインスリン抵抗性とレドクス恒常性との関連性から,細胞外において抗酸化能を発揮する唯一のSODアイソザイムであるEC-SODのレベルとインスリン抵抗性病態との関連性に着目して本研究に着手し,昨年度は,糖尿病患者の血漿中EC-SOD濃度が,空腹時血糖値,body mass index (BMI),インスリン抵抗性指数(HOMA-R)との間に有意な負の相関性を示し,血漿中アディポネクチン濃度との間には有意な正の相関性を示したこと,並びに塩酸ピオグリタゾン治療開始により血漿中EC-SOD濃度は有意に上昇したことから,血清中EC-SODレベルはインスリン抵抗性病態を反映する有用な指標となることを報告した.本年度は,これらの観察結果のメカニズムを解明する目的で,in vitro培養細胞系におけるEC-SODの発現調節機構について検討した.1.培養ヒト線維芽細胞,平滑筋細胞におけるEC-SODの発現に及ぼす医薬品の影響:上記のような臨床上の観察にも関わらず,培養細胞系を用いた実験において,インスリン抵抗性改善薬である塩酸ピオグリタゾン,トログリタゾン,シグリタゾンなどのチアゾリジン誘導体(転写因子PPARγリガンド)は,EC-SOD発現に対し影響を及ぼさなかった.また,アンジオテンシンII受容体拮抗薬であるバルサルタンもEC-SOD発現を変動させなかった.2.培養ヒト線維芽細胞,平滑筋細胞におけるEC-SODの発現調節機構:インスリン抵抗性に関連する転写因子であるC/EBPβのエンハンサーであるprolactinは培養細胞におけるEC-SODの発現を有意に亢進させた.一方,インスリン抵抗性発現の原因と言われているTNF-αはEC-SODの発現を有意に低下させたが,TNF-α抗体の共存下ではその作用は抑制された.また,この結果はレポーター遺伝子の発現量測定によっても確認された.さらに,インスリン抵抗性改善薬を始めとする多くの薬物の代謝に関わるCYPの発現調節機構についても新たな知見が得られた.以上の結果より,インスリン抵抗性病態における血中EC-SODレベルの低下は,TNF-αによる発現抑制による可能性が示唆された.
|