2004 Fiscal Year Annual Research Report
急性心筋梗塞の治癒機転に関わる骨髄由来幹細胞の誘導・分化機序の統合的検討
Project/Area Number |
15590767
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
上村 史朗 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (80232792)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
斎藤 能彦 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (30250260)
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Keywords | 心筋梗塞 / 再生医療 / 胎盤成長因子 / 創傷治癒 / 幹細胞 |
Research Abstract |
急性心筋梗塞発症後の治癒機転として,骨髄中の幹細胞が梗塞部位に誘導されて起こる血管再生の関与が確認されているが,梗塞あるいは虚血に陥った心筋組織に起因するどのようなシグナルが骨髄に作用して,血管組織などへの多分化能を有する骨髄細胞を梗塞部への誘導するか関しては不明であった.私たちは,急性心筋梗塞症例を対象として,疾患の急性期に冠静脈洞で採取した血液を用いて骨髄細胞に作用する可能性のある液性因子をスクリーニングしたところ,胎盤成長因子(PIGF)を含む数種類のサイトカインの濃度の上昇を確認した.次いで,マウスに心筋梗塞モデルを作成して行なった検討から,梗塞発症24時間以内に梗塞部心筋においてPIGFの遺伝子発現が対照の約26.6倍に亢進することを確認した.また,免疫組織染色法によってPIGFの蛋白発現様式を検討したところ,PIGF蛋白は梗塞境界域の血管組織,特に血管内皮細胞に強く惹起されることを明らかにした. 一方,急性心筋梗塞患者を対象とした臨床的研究において,閉塞した冠動脈を再灌流させることにより,冠静脈洞内でのPIGF濃度が再灌流前の約8.2倍に上昇すること,末梢血中でのPIGF濃度は梗塞発症後7日間にわたって健常者に比して約2.6倍の高値を持続することを見出した、また,急性期の左室収縮性の低下した症例で血中PIGF濃度の上昇の程度が大きいこと,さらに,急性期の経過中での血中PIGF濃度の最高値が骨髄幹細胞を含む末梢血中の単核球分画と有意な正相関を示すことを明らかにした.また,急性期のPIGF値と慢性期での左室収縮能の改善の程度が正相関することにより,PIGFが一部,骨髄からの単核球の動員を介して心筋組織の創傷治癒に関与する可能性が示された. したがって,われわれは本研究において,急性心筋梗塞後に幹細胞が骨髄から梗塞部心筋に誘導されてその部で血管に分化する機序には梗塞後の局所心筋組織で高発現するPIGFが非常に重要な役割を担っていることを明らかにしたと考えている. 成果については,Journal of the American College of Cardiologyに投稿し,現在Reviseを再提出している.
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