Research Abstract |
膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)およびIgA腎症(IgAN)などの増殖性糸球体腎炎は、メサンギウム細胞の増殖を主要な変化とする糸球体腎炎であり、慢性の経過で徐々に糸球体硬化が進行する。今年度は、これら糸球体腎炎におけるintegrin発現の細胞内シグナル伝達系への関与を検討した。この目的で、MPGN、IgAN生検標本それぞれ9例、正常コントロール(CTRL)4例を対象に、以下の各種蛋白を免疫組織学的に検討した。(1)ECM:I,IV,VI型collagen(CL I,IV,VI),laminin(LM),fibronectin(FN),vitronectin(VN)。(2)各種integrin:β1,β3,α1,α3,αVの各種integrin。(3)integrin関連シグナル伝達蛋白:focal adhesion kinase(FAK),Src2,p-cSrc,Raf1,Rac1,RhoA,Akt1,PI3K。結果は、以下の通りであった。 1.MPGN:(1)ECM沈着:メサンギウムではCL(IV),FN、GBMではCL(VI),FNの沈着増強が見られた。(2)integrin発現:メサンギウムではβ1,α3、足細胞ではα1,α3、GBMではβ1,α1,α3それぞれの発現が認められた。(3)シグナル伝達蛋白発現:メサンギウムではFAK,RhoA,Akt1が、足細胞ではRhoA,Akt1がわずかに、PI3Kは高度に、GBMではSac2,FAK,RhoA,Akt1がそれぞれ発現していた。2.IgAN:(1)糸球体におけるECM沈着:メサンギウムではCL(IV),VNが沈着し、FNは高度に沈着していた。GBMではCL(IV),FN,VNそれぞれの沈着を認めた。(2)integrin発現:メサンギウムではβ1,α3、足細胞ではβ1,α1,α3,αVそれぞれの発現が認められた。GBMではα1,αVがわずかに、β1が高度に発現していた。(3)シグナル伝達系蛋白の発現:メサンギウムではFAK,RhoA,Akt1が、足細胞ではRhoA,Akt1.が、GBMではFAK,RhoA,AKt1,PI3Kが発現していた。 以上の結果より、1.MPGN,IgANのいずれにおいても、メサンギウムにおけるCL(IV)、FN沈着増強に伴い、α1/β1,α3/β1 integrinの発現増強が見られ、相互作用の存在が示唆されたが、シグナル伝達系蛋白はFAK,AKT-1,Rho-Aのわずかな増強が認められるのみで、その他、integrin発現増強が細胞内シグナル伝達系に影響を示す所見は見られなかった。2.MPGNでは、GBMにおいて、CL(IV),FNの沈着増強に伴い、α1/β1,α3/β1の各integrin発現増強が認められたのと同時に、GBMのFAK、足細胞のFAK,PI3Kの発現が認められ、MPGNにおいてはむしろ足細胞において細胞内シグナル伝達系が大きく変化している可能性が示唆された。
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