Research Abstract |
肝術後高ビリルビン血症の予防として,術前よりステロイド投与を行う報告がなされてきた.臨床例においては,ステロイド投与による炎症反応の軽減を示唆する結果が認められているが,肝の重要な機能である胆汁分泌との相関関係に関しては,基礎的データの報告は見られていない.唯一,ステロイド投与により胆汁中重炭酸イオンの増加を証明した基礎的研究を認めるのみである.今回は,このステロイドと,胆汁中重炭酸イオンの関係,そして,この胆汁中重炭酸イオンの上昇を来たす,他の因子も含めて検討した. 実験モデルとして,ラット肝による分離還流システムを使用した。デキサメサゾン(1.6mg)を還流24時間前に腹腔内投与し,対照群と比較したところ,デキサメサゾン投与群において,対照群に比し基礎胆汁流量の1.16倍の増加を認めた.この際の胆汁中重炭酸イオンの増加は過去に証明されている. 次に,肝における内因性ガス状物質として,一酸化炭素と硫化水素も検討した.これらガス状物質は,各々,hemoxygenase, cystathionineγ-lyaseによって産生されるが,肝において胆汁分泌を制御する重要な物質である.多種の病的状態において,産生酵素の活性の変化や,産生されるガス量は変化することが報告されている.還流肝において一酸化炭素を外因性に投与した場合,胆汁中重炭酸イオンは変化せず,総グルタチオン排出量の増加による基礎胆汁流量が増加した.一方,硫化水素においては,cystathionineγ-lyase活性を低下させることにより,内因性硫化水素量も低下し,その結果,胆汁中重炭酸イオン濃度が増加し,基礎胆汁流量が有意に増加した. さらに,ステロイドによる胆汁分泌調節作用の解明を進めるため,一酸化炭素,硫化水素についても,肝における生理学的意義を基礎的実験により解明した.
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