Research Abstract |
[目的]ヒト胎盤絨毛の間質に存在するHofbauer細胞と呼ばれる大型の単核細胞は,胎盤絨毛マクロファージ(Mφ)として認識され,最も特徴的な形態学的所見である大小の空胞は二次リソソームとされる.これまで行われてきた免疫組織化学染色や免疫電子顕微鏡,さらに腹腔マクロファージのhuman chorionic gonadotropin (hCG)添加培養実験から,hCGの代謝が腎以外に絨毛局所のマクロファージで行われていることが示されている.また,hCGの受容体であるluteinizing hormone (LH)/hCG受容体遺伝子には亜型があり,その役割は現在まで不明である.本研究では,ヒト胎盤絨毛MφにおけるLH/hCG受容体の存在とその構造,さらにその役割を明らかにすることを目的とした. [方法]同意のもとに73例のヒト胎盤を得た.妊娠初期,中期,そして後期それぞれ3症例についてLH/hCG受容体タンパクについて免疫組織化学染色を行った.次に,ヒト胎盤初期絨毛から分離した絨毛MφとTHP-1細胞を用いて,reverse transcription (RT)-nested polymerase chain reaction (PCR),その産物のシークエンス解析を行った.さらに,THP-1細胞をphorbol 12-myristate 13-acetate (PMA)で処理しMφへと分化させ,野生型(Wt)ならびにその亜型であるexon 9欠失型LH/hCG受容体遺伝子(Del 9)を導入し,10μg/mlの濃度のintact hCG(hCG)で添加培養を行った.経時的に上清と細胞質中それぞれのhCGとその分解産物であるβ-core fragment (β-CF)を測定し,β-CF/hCG比を算出した.対照はPMA未処理ならびに処理したTHP-1細胞にpcDNAベクター(pcDNA)のみをそれぞれ導入した系とした. [結果]ヒト胎盤絨毛MφにはLH/hCG受容体タンパクならびに遺伝子発現が免疫組織化学染色とRT-nested PCRから示され,その遺伝子産物のシークエンス解析でexon 9の欠失が確認された.また,RT-nested PCRによりTHP-1細胞はPMA処理を行うことではじめてDel 9を発現することが示された.HCG添加培養実験から,PMAの処理に関わらずhCGは細胞内に取り込まれ,PMA未処理のTHP-1細胞より処理を行った群での細胞質内のhCGと上清中のβ-CF濃度が有意に高かったが,ベクター間での差はみられなかった.β-CF/hCG比は,細胞質においてはPMAで処理を行っていない群では0.9で,処理を行った群では2.2〜4.2倍と有意に高かったが,PMA処理群間で比較すると,Del 9を導入した系とpcDNAを導入した系ではそれぞれ3.8,3.7と差はみられず,Wtを導入した場合は2.1と有意に低下した. [考察]胎盤絨毛MφにおいてDel 9はhCGの細胞内取り込みではなく,摂取されたhCGの分解に関与しており,Wtが同時に発現することによりhCG分解が妨げられることが示唆された. [結論]ヒト胎盤絨毛MφにはDel 9が存在し,この受容体はhCGの局所分解において重要な役割を担っていることが示された.
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