Research Abstract |
Mineral Trioxide Aggregate(MTA)の硬組織形成促進作用の生物学的作用機序の詳細を解明することを目的に,in vivoおよびin vitro両面から検討を加えた。 まず,平成15年度は,ラット頭蓋骨移植モデルを応用してin vivo的検討を実施した。ラット頭頂骨に形成した骨窩洞内にMTAおよび対照材料のIRMを填塞し,病理組織学的ならびに免疫組織化学的に観察した。MTA填塞群においては材料を被覆する線維性結合組織および骨膜内に新生硬組織の形成を病理組織学的に認め,さらに免疫組織化学的観察で新生硬組織周囲の結合組織および骨膜内にPCNA陽性細胞および骨芽細胞転写因子であるCbfa1陽性細胞を認めた。このことより,MTAに接する線維性結合組織および骨膜内の未分化間葉系細胞が,MTAの刺激により骨形成細胞へ分化した可能性が示唆され,また,骨性創傷治癒を阻害しない生体親和性の高い材料であることが推測された。一方,IRM填塞群では,強い炎症性反応を呈し,新生硬組織の形成は観察されず,Cbfa1陽性細胞は認められなかった。このことより,IRMはMTAと比較して生体親和性の低い材料であることが明らかとなった。 次いで,平成16年度は,MTAの硬組織形成促進作用の本質を検討するため,ラット骨髄細胞を応用したin vitro的検討を行った。一定条件下で培養することで骨芽細胞へ分化するラット骨髄細胞をMTAならびにIRMを塗布した培養皿上で3日間培養後,硬化MTAからの成分溶出の測定,細胞増殖およびアルカリフォスファターゼ活性の測定,SEMおよびTEMによる材料上に付着した細胞の形態学的観察ならびに骨関連タンパク(I型コラーゲン,アルカリフォスファターゼ,オステオポンチン,オステオカルシン)のmRNA発現をRT-PCR法にて検索した。その結果,MTAからは微量のカルシウム,ケイ素などの構成成分が溶出していた。コントロール群と比較して,MTA群においてアルカリフォスファターゼ活性は同程度であったが,細胞増殖は抑制されていたことから溶出成分による細胞増殖抑制が懸念された。また,MTA上に付着した細胞は,微小細胞突起を呈さず,材料表面の凹凸粗造な形状に影響を受けた架橋的な接着であった。このことから,材料の表面形状が細胞付着と噌殖に影響を与えていることが推測された。骨関連タンパクのmRNA発現は,コントロールと比較してアルカリフォスファターゼは同程度であったが,I型コラーゲンのmRNA発現が有意に低かった。オステオポンチンのmRNA発現はサイトカインの影響によるものと考えられ,またオステオカルシンのmRNA発現は検出感度以下であった。以上の結果から,MTAはIRMに比して生体親和性の高い材料ではあるが,ラット骨髄細胞の骨芽細胞への分化を促進するような作用は低いものと考えられた。
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