2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15651003
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
久野 勝治 東京農工大学, 農学部, 教授 (70092484)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡邉 泉 東京農工大学, 農学部, 助手 (30302912)
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Keywords | タリウム / 地球環境汚染 / 生態毒性 / 強毒性元素 / 野生動物 / 道路脇粉じん / 植物-土壌 / 都市汚染 |
Research Abstract |
微量元素の中でも毒性の高いタリウムは、近年、ハイテク産業の急激な発展に伴い工業的な需要が増大している。しかし、その詳細な生体毒性や体内挙動はもとより、環境中での分布・動態や生態系への影響など、いまだ未解明な点が多い元素でもある。本研究は、このような、環境化学的に無視できない新たな超微量元素による環境汚染の把握を目的としている。これまで、本研究室に蓄積された各種環境試料中の濃度を、マイクロウエーブ分解-誘導結合プラズマイオン源質量分析法にて測定した。 NISTの標準物質(No.1577b)を用い、分析の精度および確度を検討した。その結果、繰り返し分析から良好な再現性が得られた。また、既報の分析値ともよく一致した。 生態系における分布を確認するため、世界の幾つかの水域(日本沿岸・深海や黒海など)から収集された魚類43種および、野生鳥類9種(ロシア共和国及び日本産)の筋肉、肝臓および腎臓における蓄積を比較生物学的アプローチにて解析した。その結果、大量変死を起こした栃木県産ムクドリの体内から極めて高濃度のタリウムを検出した。 また、東京都内の主要幹線道路18地点で約一年間、道路脇粉じんを採取し、アジアを代表する都市環境における汚染の実態把握を行った。その結果、東京都内においてタリウムは都心から都下にかけて減少する地理分布が認められたが、上野など都内の中心部において経時的な濃度上昇が確認された。 これらの成果は、強毒性元素であるタリウムが人為活動を通じて生物圏へ放出され、さらに生態系で進行する異常に寄与している可能性を示唆するものと結論付けられた。来年度は更なる試料多様性の充実を行い、より包括的な生態系での分布を明らかにすると共に、他元素との相互関係など生化学的なアプローチも含め、タリウムの生体影響評価に迫る方針である。
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[Publications] 渡邉 泉, 田辺信介: "バイカル湖,カスピ海,黒海および日本沿岸産魚類20種の微量元素蓄積"環境化学. 13・1. 31-40 (2003)
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[Publications] 渡邉 泉, 寶來佐和子, 新井雄介, 久野勝治, 林光武, 谷地森秀二, 國頭恭, 田辺信介: "2000年に栃木県で大量死したムクドリSturnus cineraceusの微量元素蓄積"環境科学会誌. 16・4. 317-328 (2003)
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[Publications] 宝来佐和子, 渡邉 泉, 久野勝治, 田辺信介, 岩水良和, 本村 健, 平岡 考: "1999年に羽田で捕獲されたチョウゲンボウの微量元素蓄積"環境化学. 13・3. 719-732 (2003)