Research Abstract |
本研究では北海道内のサケが遡上する河川を対象地とし,サケの死骸分布と移動状況・分解過程の調査と,死骸が森林・河川生態系の中でどのように利用されているかを安定同位体により評価を行った一これまで道東の河川で調査を行ったが,酪農施設から流出する窒素の影響とサケの遡上効果を分離できないため,本年度は農業の土地利用が全くない,胆振管内白老町を流れるメップ川を対象地とした,調査方法として,河川・川岸に滞留する産卵後の警死したシロザケに,ナンバーテープや電波発信機を装着し,GPSを用い位置と移動過程を定期的に測定した.また,河畔林の葉,水生動物,藻類の窒素安定同位体比分析を行い,サケの死骸が生態系に及ぼす効果を評価した. 調査の結果,河川内と陸上では大きく分解過程が異なることがわかった.死骸に標識付けを行ったものの内,消失したものは49%,河川内で分解したものは34%,陸に引き上げられたものは15%であった.また移動距離は5m以下が22%,6〜20mが24%,そして100m以上の移動が確認できたものは16%であった.河川内では水生菌が発生して生物には殆ど利用されなくなり,水流により物理的に分解されるものが多かった.しかし,分解速度が遅く,早瀬にあるホッチャレで2〜3週間,淵のような水流が遅く死骸が殆ど移動しないような場所では5週間以上も滞留していた.一方陸に上げられた死骸は,川岸から5m以内の場所で利用されることが多かった.分解者として9月から10月前半までハエ等の双翅目幼虫が多く摂食し,10月後半からは大型哺乳類が多く利用しており,1週間以内には完全に分解されていた.つぎに植物,水生動物の窒素安定同位体比をサケが遡上しない対照河川と比較したところ,草本であるアキタブキと藻類に有意な差が認められた.また水生動物は代表的な5種全てで対照河川に比べて高い値が観測された.このことからサケの影響は,大型草本と藻類,および水生動物に影響していることが明らかになった.
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