Research Abstract |
1.目的: 我々はBenettらの方法に従い,顎顔面領域の慢性痛が内分泌調節にいかなる影響を及ぼすか明にすることを目的として、ラット眼窩下神経の結紮(CCI:Chronic Constriction Injury)を行った.慢性痛の発現を確認するため、顎顔面領域の機械的刺激に対する種々の反応を観察した.さらに,神経組織の組織学的検索を行うとともに,視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA系)の活動変化の指標である血液中のコルチゾールとACTHの濃度解析を行った. 2.方法: 実験にはSprague-Dawleyラット(体重約200g)を用い,コントロール群と眼窩下神経をChromic gutにより縫合を行ったCCI群に分けて実験を行った.眼窩下神経を剖出し,神経を1.0〜2.0mm間隔で2カ所をChromic gutを用い比較的ゆるく結紮した.タッチテストフィラメント(Von Frey hair)にて,眼窩下神経支配の顔面領域に一定の軽度の圧力をかけたときの反応によって行動を評価した.ラットをプラスチックの専用容器に入れ,タッチテストを3回行いその平均を取った.タッチテストによる反応の評価は,「無反応」,「微弱な反応」,「顔をひっこめる」,「攻撃をする」,の4段階に分類し,術前,術後2週目,術後3週目,術後4週目の4回行った.術後4週目には眼窩下神経を摘出採取し,切片標本にし,HE染色を施し観察を行った.また,ELISA法にて血漿中のコルチゾール,ACTHの濃度測定を行った. 3.結果と考察: タッチテストを行った結果,Chromic gutにより縫合を行ったラットは,術後2週目で閾値の上昇が見られたが,その後閾値は低下した.組織標本にてコントロールと比較し,Chromic gutにより縫合を行った眼窩下神経の軸索に,配列の乱れ,組織の変性が観察された.血漿中のコルチゾール濃度は,コントロール群と比較し,CCI群ラットにおいて有意(P<0.05)な減少が見られた.これらのことから,ラット眼窩下神経に施したCCIは,顎顔面領域機械的刺激に対して疼痛様反応を発現させ,術後4週目には,眼窩下神経の変性ならびにHPA系の内分泌異常を伴うことが明らかとなった.
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