Research Abstract |
本年度の研究実績としては主に次の3点が挙げられる.1つ目は,量子オートマトンに関する結果であり,量子プッシュダウンオートマトンに関して,対応する古典モデルとの比較を行い,量子モデルの優位性を示した.具体的には,片側誤りの条件の下で,古典スタック付き量子プッシュダウンオートマトンが古典プッシュダウンオートマトンよりも真に能力が高いこと,及び,エラーなし計算の条件の下で,量子プッシュダウンオートマトンで計算可能であるが,古典プッシュダウンオートマトンでは計算不可能な部分関数が存在することを示した. 2つ目は,分散計算において,量子プロトコルが古典プロトコルと比べて通信量を減らすことができることを示した.具体的には,分散計算のためのネットワークにトポロジを取り入れ,リング上のn人でDistinctnessと呼ばれる関数を計算する効率的なプロトコルを提案した.また,そのプロトコルが条件によっては最適であることを示した. 3つ目の結果として,効率的に盗聴者の存在を検出できる量子秘密通信プロトコルを開発した.送信者と受信者の間で,秘密情報および囮情報を複数回やりとりすることにより,安全に量子情報を送信することができる.量子情報を送信できる秘密通信プロトコルの提案は,筆者の知る限り初めてであり,重要な結果であるといえる. その他にも,エラーを含むオラクルを用いた場合の量子質問量に関する結果として,オラクルがエラーを含む場合でも効率的に問題を解くためのアルゴリズムを提案した.また,量子封印プロトコルについても,成果を挙げている. これらの結果は,いずれも量子デバイスだけでなく古典デバイスとの協調計算を行ったり,問題設定として現実的な状況を考えており,結果として現実的な状況を考慮した場合に置ける量子計算機の優位性を示している.
|