Research Abstract |
本研究は,森林科学を体系的に学習するための優れたツールである樹木年輪を用いて,森林を構成する樹木の仕組み,そして森林そのものの仕組み,そして人類がこれまでに森林環境に及ぼしてきた影響などについて,障害者そして健常者が分け隔てなく学ぶための教材を開発することと,教材を使用した野外教育の実践的研究をとおしてその教育効果について評価することを目的としている。初年度にあたる本年度は,触覚年輪体感教材の作成,点字テキスト・図版の作成,野外学習会の実施を計画した。 ・触覚年輪体感キットの作成 愛媛大学附属演習林で採取したスギ,ヒノキ円板試料をサンドブラスターにて加工し,木口面(横断面)・柾目面(縦断面)の早晩材間に凹凸を生じさせ,年輪幅の広狭,樹種の違いを触感で体感できる教材を開発した。また,後述の野外体験企画および教室講義にて実際に使用し,その教材としての適正を評価した。しかしながら,今回はスギ・ヒノキなど針葉樹に限られたため,今後,広葉樹も含めて樹種を増やしながら,樹種ごとの加工条件の最適化を図る。 ・点字テキスト・図版の作成 本年度は,野外体験教室に重きをおき,年輪教材についてだけでなく,ひろく森林体験企画に対応する点字教材,パンフレットを作成した。その際,点字教材の読みやすさを,文字間隔,記述内容最適な今後,触覚年輪体験キットに密接に対応する,年輪の構造,樹木成長のしくみについて解説した点字テキストを作成する。 ・9月野外学習会の実施 本年度は,視覚障害者向け野外体験講座として,「樹木ソムリエ養成講座」(8月23日),「音で聴く森,感じる森」(11月15日)を実施し,アンケート,静止画・動画による観察記録を元にその効果を解析した。その結果,森林が環境維持や木材資源として果たす役割や,樹木の成長のしくみについて効果的に学習することのできる条件が明らかとなった。また,企画は学習面だけではなく,参加者およびスタッフの心理面に強く影響を及ぼしていたことがわかった。年輪教材については,さらに筑波大学附属盲学校にて実施した特別講義にも使用した。講義は触覚年輪体感の観察をとおして,樹木の年輪の構造と樹木成長のしくみ,そして樹木の年輪が記録する環境の変遷について学習する内容とした。その結果,学習目標をおおむね達成することができたとともに,生徒の樹木に対する興味を引き出すことができた。
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