Research Abstract |
産総研の倉地(年齢軸生命工学研究センタ長)らの研究グループは,年齢に伴い発現および活性のパターンが変化する因子(例えば第9因子など)の遺伝子を解析し,そのコード領域の上流に存在する特徴的なシグナル配列を見出した。彼らはこれをASE (Age-related Stability Element)と名づけ,その遺伝子内における位置から,ASEは特異的な転写因子によって認識され,下流の遣伝子の発現を安定に維持する機能を有することを,主としてマウスの肝臓において明らかにした。そこで倉知らは,ASEを特異的に認識する転写因子の同定を次に試みた。昨年度までに,その因子の候補の同定に成功したかのように見えたが,実際に最終決定に至るまでには,なお実験的な困難と不確定性の存することも明らかになってきた。 そこで本年度においては,生物情報学的手法も駆使して,現在の実験データを元に当該のターゲット因子をゲノムおよび立体構造データベース内に検索することをまず試みた。ASEの塩基配列から,これを特異的に認識する転写因子を検索したところ,Etsファミリが該当した。このファミリ内において,さらに特異性を絞ったところ,複数の因子が強い候補となった。加えて,倉地らによって進められているプロテオミクス解析によると,(他の研究グループによる従来の報告に反して)そのもっとも主たる因子自体が,肝臓においても発現していることが明らかになってきた。その結果に基づけば,同因子もまた当該ターゲットの候補として矛盾しないことがわかった。 これらよりASEを特異的に認識する因子は,Etsファミリ内にある可能性がきわめて高く,しかもファミリ内の最も主たる因子などと(進化的・機能的に)近い存在であることが示唆された。したがって,これらのDNA認識機構を解析することは,ASEの特異的な機能発現を明らかにするために不可欠の知見をもたらすことは疑いない。そこで,これらの因子とDNAとの複合体を,構造モデリング技術を駆使して構築し(3ステップモデリング法・ステップ1),さらに分子動力学計算を開始するに至った(同ステップ2)。 現在,シミュレーションが進行中であり,今後この結果を詳細に解析する予定である。これによって,ASEの機能発現機構の深い理解に,原子解像度における重要な示唆を与え得ると共に,医薬学への応用基盤につながるものと強く期待される。
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