2004 Fiscal Year Annual Research Report
「不在」としての形象-造形芸術における不可視のもののメタファー性について
Project/Area Number |
15720021
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
三木 順子 京都工芸繊維大学, 工芸学部, 助教授 (00283705)
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Keywords | イメージ / 形象 / モダン・アート / 現代アート / 否定弁証法 / 歴史 / 記憶 |
Research Abstract |
本年度は、3つの方向から研究を進め、以下に記すとおりそれぞれに一定の成果を得るに至った。 (1)モダン・アートの展開のなかで、形象は、自己自身以外のものを参照することを激しく拒む。それだけでなく、形象は、自己自身として「在る」ことさえをも強く否定し、「不在」として逆説的に、しかも矛盾を孕んだ仕方で自己をあらわしだす。この特異な自己表現の否定弁証法的な論理を、視覚経験の枠内で解釈するのではなく、聴覚・触覚をも含む身体感覚とでもいうべきものに着目し、建築と一体化したインスタレーションに則した考察を、7月に、ブラジルで開かれた第16回国際美学会議で、当該研究と同じタイトルのもとに発表した。 (2)建築や都市空間と一体化したインスタレーションでは、「場所」や、その場所の担う「歴史」や「記憶」が重要な問題となる。形象を、たんに色と形からなる媒体とみなするのではなく、場所・歴史・記憶ともかかわる媒体として理解することは、形象という概念そのものの見直し、あるいは形象の潜勢力の再解釈に繋がるであろう。こうした新たな形象理解に向かう論考を、「流動するトポス」というタイトルのもとに、9月に台湾で開催された第3回アジア芸術学会で発表した。今後、当該研究のテーマのもとにこうした考察を展開するならば、形象による歴史や記憶の表象の可能性というよりは、むしろ、そうした表象の不可能性を、形象は「不在」をとおしてどのように表現しているのかが論点となるであろう。 (3)引き続き、今日の形象研究の文献を広く収集し解釈するとともに、3月から年度をまたいで、スイス・バーゼル大学のG・ベーム教授の示唆をあおぐ。近年の形象(イメージ)研究では、カルチュラル・スタディーズの一環として、形象が文化のなかで、どのように戦略的に意味を付与されるのかを解明することに力点が置かれている。同時に、サイバー・スペースにおける形象のリアリティをめぐる論考も、活発に提出されている。こうした研究に対して、当該研究がどのような位置づけにあり、どのようなアクチュアリティをもちうるかをか明確にしていくことが、今後必要となってくるであろう。
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