2003 Fiscal Year Annual Research Report
視覚装置論―パノラマ、ステレオ、幻灯と写真についての比較研究―
Project/Area Number |
15720022
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
前川 修 神戸大学, 文学部, 助教授 (20300254)
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Keywords | パノラマ / ステレオ / アルプス / 写真 |
Research Abstract |
今年度の研究として、各資料の収集とともに現存するパノラマの調査を行った。 19世紀に欧米の各都市に登場したこの施設の扱った主題のうち、磔刑を扱ったもので現存するものは少ない。そのうちドイツのアルテュッティングとスイスのアインジーデルンの調査を行った。主題が限定する時間と空間の画面への構造への作用、つまり磔刑場面を中心とした複数場面の繋ぎ合わせ、展望台と画面の間の仮設空間の様態などが、他の主題のものとは大きな差異をもつということ、展望台上での鑑賞者の身体の動きにも大きな影響を及ぼしていることが結果として明らかになった。また、こうしたパノラマが設置された巡礼地という場所のもつ磁場というものも、この調査を通じて見て取ることができた。 次にオーストリアのインスブルックの戦争パノラマでも調査を行った。都市の成立と深く結びついたパノラマの構成は、同主題の他のパノラマに比して、観者の画面の奥行きへの引き込みやそこからの押し返し(ルツェルン)とは別に、展望台を横断するような傾斜--画面の焦点は小高い丘の参謀本部であり、その照準は展望台を挟んだ山の斜面となる--による構成となっており、見渡すことと一律には把握できないようなパノラマの仕組みを見て取ることができた。 また制作方法に関して、独特の作業方式を必須とするパノラマ制作上のさまざまな問題についての資料も調査することができた。そうした調査のうえで、分業の一例としてドイツ南部で主に風景画家として活躍したパノラマ画家の問題も重要な発見であった。 字数の関係上、簡略化して記すが、パノラマとディオラマやステレオ写真、アルプス絵画、パノラマ地図との関係に関してもさまざまな資料を入手し、検討することができた。 以上が、今年度の研究実施の成果である。
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