2003 Fiscal Year Annual Research Report
プロネーシスの学としての文学研究のための基礎的研究 ―音と言葉の関係をもとにして―
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15720062
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
黒子 康弘 東京都立大学, 人文学部, 助手 (50305398)
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Keywords | プロネーシス / ルードルフ・カスナー / リルケ / 感性社会学 / ヴァーグナー / バロック / ギリシア古典古代 / ロマン派 |
Research Abstract |
本研究は、文学を、あるシステムにおける構築と解体のせめぎあいの言語化と定義し、この観点から音楽と文学の関係を照射し、文学がシステムとしての音楽をどのように批判的に、あるいは逆に補完的に記述してきたかを捉えようというコンセプトを出発点とする。この基点を画するものとして、20世紀前半に位置するリルケの詩の韻律の意味と音楽との関係を取り扱った論文を平成15年度中に2本(内1本独文)発表した。これを軸に19世紀から20世紀前半にかけての詩と音楽(音)の関係について広く調べたが、韻律上の洗練と思想的深みにおいてリルケに匹敵する詩人をついに見出せなかった。もちろん詩人以外の小説家、批評家、音楽理論家の言説に優れたものはあるが、大方はすでに多方面で研究されている。これまで私はリルケ研究に10年費やすことでようやく前述の2本の論文にたどり着くことができた。そのことを考えれば、広く表層を捉える研究は無意味と判断せざるをえなかった。そこで日本で研究のほとんど為されていない文化学者で批評家ルードルフ・カスナーの著作の精査に思い至った。カスナーは、ギリシア古典古代からバロック、古典主義、ロマン派の文学思想に精通し、またその学識を背景にブラームス、ヴァーグナーの音楽から、世界そのものの韻律、尺度、ロゴス、音、慣習、つまり本研究でいうところの「プロネーシス」について独自の思想を残した。またカスナーはヨーロッパ世界にとどまらずインドに多大な関心を持ち、ポストコロニアル的思考の先駆のような著作も残しているため、カスナー研究は「プロネーシスを捉える学としての文学研究の本質を追究する」という本研究課題の主旨に合致すると判断した。カスナー研究初年度の成果は、インド世界とヨーロッパ世界の根源的な差異を取り扱ったカスナーの著作『インドの思想』論という形として本年度中に発表予定である。また当研究の奥行きと幅を持たせるために、日本感性工学会感性社会学部会に入会し、工学、理学、心理学、社会学、哲学、芸術、デザイン、アパレル、モード、経済学、文学の垣根を跨いだ交流を行った。また来年度中に日本感性工学会感性社会学部会で出版予定の著作『感性と社会』に投稿する論文を「プロネーシス」の観点から執筆中である。
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Research Products
(3 results)
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[Publications] 黒子康弘: "「愛することはないのに、愛は持っている」ということ --ルドルフ・カスナーとヨーロッパ--"人文学報. No.356. 13-32 (2004)
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[Publications] 黒子康弘(編共著): "Kulturwissenschaftの課題と実践 日本独文学会研究叢書(ドイツ語名:Studienreihe der Japanischen Gesellschaft fur Germanistik) 第016号 編著者:黒子康弘 執筆担当部分名称: リルケの詩における言説,および表象の機能と意味について-リルケ後期の詩"Gong"試論- (P.69-83 計15頁)"日本独文学会. 83 (2003)
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[Publications] 黒子康弘(共著): "Medien and Rhetorik. Grenzgenge der Literaturwissenschaft 執筆担当部分名称 Zur Kritik der Reprasentation in Rilkes "Die Auf- zeichnungen des Malte Laurids Brigge" and in den "Duineser Elegien" (P.187-200 計14頁)"iudicium Verlag. 226 (2003)