2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15720145
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
三上 喜孝 山形大学, 人文学部, 助教授 (10331290)
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Keywords | 木簡 / 墨書土器 / 漆紙文書 / 文字文化 / 習書 / 文書行政 |
Research Abstract |
平成16年度は、前年度に引き続き、日本古代の文字文化に関わる調査・検討をおこなった。まず、奈良時代の正倉院文書の中の習書の事例を検討すべく、正倉院文書のマイクロフィルム紙焼き写真を購入し、活字からだけではわからない習書の情報を収集した。紙焼き写真の購入はすべてには至らなかったが、購入した分の検討を進め、現在データを整理中である。次に、木簡や墨書土器などの出土文字資料の実地調査をおこなった。いうまでもなく、木簡や墨書土器は日本古代の地方社会における文字文化の受容を考える上で格好の素材である。具体的な調査先として、国立歴史民俗博物館において各地から出土した文字資料の検討をおこない、藤沢市において東国出土の人面墨書土器(土器に人面や文字を記したもの)をおこない、秋田市において東北各地出土の文字資料の検討をおこなった。こうした調査・検討をふまえて、具体的なモノ(文字をともなった資料)に即した研究をおこなった。まず、石川県で出土した「加賀郡〓示札」の再評価をおこない、〓示札が9世紀当時の律令国家の理念と地方社会の実態の両面を示す資料であり、9世紀段階の地方社会における文字文化の到達点であることを確認した。また、日本列島の初期段階の文字資料である銭貨にも注目した。7世紀後半に発行された銭貨「富本銭」に注目し、7世紀における銭貨が、文字を含め、呪術性の強いものであることを確認した。さらに、前年度に引き続き、東北地方や日本海側地域における文字の受容と信仰との関わりを考察した。具体的には、東北日本海側各地に残る四天王信仰の実態を、文献史料、墨書土器、文化財などの諸資料をふまえて検討した。そして、東北各地の城柵から出土する漆紙文書、木簡、墨書土器なども文字資料を総体的に検討し、城柵内の文書行政の実態と、その文書行政をになった郡司子弟たちの様相を明らかにし、古代東北の城柵が、東北各地の地域豪族たちにとって律令性的文書行政を体得する最先端に位置する施設であったこと、そして、そこには、地域の首長である郡司の子弟たちが大量に出仕しており、そのことが、地域社会の文字文化の受容に大きく貢献したこと、などを明らかにした(「城柵」『文字と古代日本2 文字による交流』吉川弘文館、2005年)。このように、検討の素材は多様であったが、7世紀段階の資料の検討により、日本の文字文化の初期段階について考察することができ、さらに地方出土の文字資料の検討をおこなったことにより、古代社会において文字文化がどのように浸透したか、その過程を明らかにすることができたので、全体として有意義な成果を出すことができた。
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Research Products
(4 results)