2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15720158
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
山本 真 筑波大学, 大学院・人文社会科学研究科, 講師 (20316681)
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Keywords | 中国国民政府 / 中国国民党 / 土地政策 / 日中戦争 / 農業政策 |
Research Abstract |
前近代中国においては国家の社会への直接統治は県レベルまでに止まり、村落レベルには非正規の公務人員である胥吏・郷村役及び在地紳士層を通じた緩やかな統治が及んだに過ぎなかった。しかし、近代以降西欧の国民国家体制の建設が中国においても喫緊の課題とされるに至って、村落レベルまでもが直接的・均質的統治の対象とされたのである。本研究は近代中国における国民国家の建設過程の実態を村落レベルまでの国家権力の浸透という側面から検討することを課題としている。平成16年度においては、戦時体制を構築するために村落レベルから人的資源・物的資源を効率よく吸い上げることが目指された日中戦争時期の農村政策を検討した。 抗戦の大後方である西北地区甘粛省における農業建設では農業生産向上を目指し、水利灌漑建設が中国国民政府(中央政府)の梃子入れで実施された。しかし、中央政府からの資金導入で灌漑設備が建設されると、土地生産力の上昇にともなう地価の高騰、地主への地権の集中が大きな問題となった。これに対して国家は土地を有償で地主から買い上げ、実際に耕作する生産農民へ払い下げる自作農創設政策を導入した。この結果、農民は土地を分配され、引き続き水利組合に組織化された。このように日中戦争時期、抗戦体制の維持を至上命題とする国家は、農業生産性向上のために、基層の生産構造に介入したのである。しかし、甘粛省において中央政府が基層に支配を浸透させることには限界があった。すなわち当該地区では回教徒軍閥の勢力が強く、中央政府が全省にくまなく権力を行使することは難しかった。また、抗戦のための食料調達は農民に過大な負担をかけたため、大規模な叛乱が勃発した。以上の問題と困難を孕みながらも、抗戦体制の確立を試みた中央政府は、従来中央の勢力の及び難かった甘粛省において、基層からの農業建設、農民の組織化を実施し、不十分ながらも初歩的な成果を上げ得たのである。こうした事実からは、近代中国における国家権力の社会への浸透の一側面が浮き彫りになったと考えられる。
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